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kiss
第8章 reach
「さっさとしてよ」

 けだるく俺の首に寄り添う。
 指先がうなじをなぞる。
 空に止まった俺の目を睨み、ぐいと顔を自分に向ける。
「あいつが勝っちゃうよ?」
「……ああ」
「おれが手に入んないよ」
 シャツのボタンに手をかける。
 プツ。
 上から一つずつ外していく。
「本当のこと言うとね……あんたに勝ってほしいわけ」
 拓いた胸に手を滑らせ、鎖骨に頬擦りをする。
「そうだ。あんたの名前なんだっけ」
 冷たい肌。
 耳までの髪がかする。
 その反応を見るように見上げる。
「まあ……いっか。名前も知らない奴とヤるのはいつものことだし」
 髪を掻き上げ、縛る。
「邪魔なんだよね、切っちゃいたい。でも外に出らんないからさ」
「よく喋るな」
「あんたが無口なんだから」
 ベッドに座り、頭の後ろで手を組む。
「名前呼ばれたくないんだ」
「じゃあ好きに呼ぶよ」
 ギシ。
 腕を引かれる。
「おれを救ってくれる王子サマ。だから應治ね」
 首に抱きつき、キスをされる。
「王子?」
「應治。かっこいい名前でしょ。おれね、会ってみたいの。オウジって名前の王子様に」
「ふっ……」
「あっ。笑ったね、おれも呼んでよ」
 耳元で囁く声。
 それしか聞こえない。
 このあと凛に抱かれるというのに。
 なんでお前は楽しそうなんだ。
「光樹……」
 なんでこうなったんだ。
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