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真珠浪漫物語
第5章 秘密と嘘
その日から、梨央は週に一度はお茶会に参加すると偽り、浅草カフェに通い始めた。
綾香に逢いに行くためだ。
本当は毎日でも通いつめたかったのだが、あまりに頻繁だと月城に気付かれてしまうので我慢した梨央である。
月城は急に社交的になった梨央に驚きつつも
「…お嬢様もすっかり大人になられましたね。旦那様にご報告しなくては」
と満足そうだ。

今日も九条子爵夫人のお茶会にかこつけて浅草カフェに向かう梨央。
さすがにもはや社会見学ではないと気づき始めた運転手の上田ではあるが、梨央があまりに幸せそうなので
「…私は何も知らなかったことにいたしますよ…お嬢様」
と諦めたようにつぶやいた。

梨央は今日も一番テーブルに座り、綾香を見つめている。
薔薇色のオーガンジーのドレスにレースの手袋、髪は綺麗に結い上げ、ピンクオパールの髪飾りをつけている。

…本当に…ここがどこだか分かってんのかね…
綾香は舞台袖から梨央を確認して、肩を竦める。
そして、舞台に足を踏み出した時…

客席の梨央に、一人の酔客が絡んでいるのが見えた。
「よう、綺麗なお姫様。…あんた最近よく来てるけど、綾香が好きなの?あはは…女が女を好きになってどうすんの。…俺にしなよ。お姫様!」
梨央の手を無理やり握ろうとする酔客。
梨央は泣きそうになりながら
「…や、やめてください…離して…」
「いいじゃねえか。…ちょっと酒の一杯付き合うくらい。…綺麗なお姫様、じっくりお顔を見せてくれよ、な?」
しつこく迫る酔客。
「…い、嫌…!やめて…!」
と、その時
「…その汚い手を離しな。スケベじじい」
綾香の鋭く冷たい声が飛んだ。
同時に、テーブルにあったグラスの水を酔客に容赦なく浴びせる。
「な、なにしやがる!」
「…お、お姉様!」
思わず綾香にすがりつく梨央。
梨央を背中に庇う綾香。
「…この子はね、あんたみたいに汚いオヤジが触っていいような子じゃないんだよ、バ〜カ!」
せせら笑う綾香に酔客が激怒する。
「て、テメエ…ちょっと綺麗なツラしているからって、調子に乗るんじゃねえぞ!」
綾香に掴みかかろうとするのをケン坊が背後から羽交い締めにし、叫ぶ。
「あ、綾香さん!梨央さんを連れて早く逃げて!」
「な、何しやがる!このガキ!」
「ケン坊、ありがとう!行くよ、お嬢様!」
「は、はい!」
綾香は梨央の手を握りしめ、店の外に駆け出す。
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