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明治鬼恋慕
第9章 紅粉屋


──もしくは魚屋に追われる野良猫か。


「焔来? 足元がふらついてるけど大丈夫かい」

「…ハァっ…誰のせいだと思ってんだよ」


前を行くリュウに心配されて、気だるさのぬけない焔来は反抗的に歯を剥き出した。


「変な顔してたら…ほら、危ないっ」


そんなことをしているから、足元の注意がおろそかになる。

瓦につま先を引っ掻けて転げそうになった焔来は、危うく体勢を立て直して、大人しくリュウの後を追った。


だがそれでも──焔来の注意は足元ではなく眼下の風景に注がれていた。

屋根の上から臨む街の景色は、道からのそれとまた違って面白い。

遠くまで連なる街区に目を細めれば、それらの道を駆け抜ける挟箱( ハサミバコ )を担いだ商人が、まるで蛇行する川を下る魚のようにも見えてきた。


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