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明治鬼恋慕
第9章 紅粉屋


「はっはっは、『紅粉屋』の屋号を知らぬとな。お前たち…どうやらこの街の者ではないと見る」

「……っ」


しかし余所者であることを見抜かれ、焔来はぐっと言葉を呑んだ。


『紅粉屋』の亭主、児嶋 又左衛門。

かの酒井家の御用商人であったこの男は、武家ではないがかねてより苗字帯刀を許されていた六人衆のひとり。

その財力は幕藩体制が終わった現在も変わらず、この街の強力な支配者である。

そんな彼を知らないというのは…街の住人として明らかに不自然だった。


「近隣の村の百姓か? 金の工面に困り…自暴自棄になり盗みを働こうと?」


金持ちらしい余裕を浮かべた表情で、又左衛門は焔来を嘲笑った。


「そうじゃない!」

「…っ…焔来、落ち着いて。代わりに僕が説明するから」

「リュウ…っ」


わめく焔来を黙らせようと男たちが刀の鞘を振り上げた時、それを庇うかたちでリュウが彼の前に躍り出た。


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