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小鳥遊医局長の憂鬱
第4章 威厳喪失
「Trick-or-treatingは、何時からでしたっけ?」

病棟でオーダーを書いていた小鳥遊が看護師に聞いた。

「夕食後なので18時過ぎから消灯前までですね。」

当直以外の医者も、看護師もそれぞれ好きなコスチュームに着替え、準備を始めていた。冬は病衣を着た患者の恰好をしていた。

「師長さんっ!紛らわしいからその恰好やめて下さいよ。ナースステーションで仕事しているのを見るたびに徘徊患者と間違えちゃうから。」

看護師達から文句が出たが、本物の患者からは好評だった。

「この時期に入院出来て良かったわ。小鳥遊先生…今日はお疲れさまね。」

患者が通るたびに小鳥遊に声を掛けた。

「ガーター!ガーター!見えてるから!!」

椅子に座っていると、ついいつものように足を組んでしまい、看護師達にその度に注意を受けて慌てて座りなおしていた。そんな中、日勤と準夜勤の狭間の、微妙な時間帯に外来から突然電話が掛かって来た。

「当直の山口先生と連絡が取れないのですけど、頭部打撲の6歳の子供が居るので、降りてきて下さい。患者さんERに居ますから。」

小鳥遊は早速ERへと向かった。夜勤のスタッフ達はすぐ見分けがついた。

「あっ。副院長。こちらです。」

ERの看護師がバタバタと小鳥遊を案内した。カーテンを開けると、額にたんこぶを作った男の子だった。小鳥遊の姿を見て両親はギョッとした。

「こんな姿で申し訳ありません。これからハロウィンの仮装パーティなものですから。」

跳ね返って来たブランコが額に当たり、たんこぶを作った子供だった。触診しながら、いつものように説明をした。

「大丈夫だとは思いますが、今晩一晩は子供さんから目を離さずにいて下さいね。呼んでもボーっとしてたり、嘔吐したり頭を痛がるようなら、すぐに連れて来て下さい。」

小鳥遊は椅子に座りオーダーを入力しながら、ついいつものように足を組むと艶めかしいガーターベルトが見え隠れした。母親が慌てて男の子の眼を手で抑えた。



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