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第1章 新居
「たっだいまーー!!!」

階段を駆け上がる音に、慌てて玄関まで移動して、羚汰を迎える。

「おかえり!」

まだまだ見慣れないスーツ姿の羚汰が、玄関に荷物を放り投げて、満面の笑みで飛び込んで抱きしめて来る。

変わらない、いつもの匂いに包まれる。

「お疲れ様」

「あー。ただいま。今日も疲れたぁーーー」

羚汰が耳の下あたりの首に顔を沈め、唇を肌につけるようにしたまま話すので、言葉を放つ度にくすぐったい。

「なんで逃げるのー」

逃げようとしたのに、かえってぎゅうっとされてしまった。

「くすぐったいんだもん!」

ここのところ随分と暖かくなってきたので、稜はもこもこのパーカーをやめて、首元が開いた部屋着を着ていた。
それがいけなかったらしい。

くすぐったいと聞いて、羚汰の目がきらりと光る。

やばい、と思った時には遅かったらしい。

唇が肌の上を「ぶー、ぶーっ」と音を立てながら履い回る。

「きゃはは!やだ、降参〜!」

笑いながらも必死で抵抗して羚汰の顔を引っペがす。

目が合うと、羚汰から目を瞑って唇を突き出す。

「んー」

稜からのキスを待ってるらしい。

もう。お味噌汁の火、弱火にはしてきたけど、かけたままなのに。

稜は、羚汰の唇に短くチュッと口づける。

「はい。リビング行こー」

「えー。もう終わり?短っ!はやっ!」

呆然と立ち尽くす羚汰の腕の中から逃れて、羚汰が床に投げたままのカバンを拾い上げる。

ぶーたれながらも、くるりと反転して靴を脱いでる。

それからいつものように手を繋いでリビングに向かった。

玄関入って廊下をくの字に曲がった先がリビングだ。

手前には寝室があって、その反対には風呂場やトイレがある。

築30数年の古い一戸建てだ。
一階は隣に住む家主さんの駐車場で。
大きなキャンピングカーと、昔ここに住んでいた息子さんの趣味のスポーツカーがあるらしい。
シャッターで中が見えないのでどんな車かは噂だけだ。

その2階部分が2LDKになっていて。
軽くリノベーションされている。

少し最寄り駅からは離れるが、周りに“音”で迷惑をかけない、独立した部屋というのが借りる決め手になった。

家主さんも儲けの為に貸してるというより、空いてるよりは、隣に住む訳だし、いい人に借りてほしい。という考えらしく。
と軽く面接があったくらいだ。
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