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第4章 稜の秘密
「お先、失礼しまーす」

今日は残業らしい残業もなくて。
アキラさんや同じ課の先輩たちにもつかまらなかったし、比較的早くフロアを脱出することが出来た。

エレベーターに乗ると、アキラさんじゃなくても誰かにつかまってしまう。
普段誰も使ってないだろう非常階段を駆け下りて、玄関ホールを目立たないように足早に抜ける。

ホールを抜ければ、駅までのスグの立地もあって、簡単に人混みに紛れてしまえるのだ。


ここまで来れば大丈夫。


人の波に乗りながら、いつもの様にスマホを取り出す。

「会社出たよー」とフリックしかけて、ふとひらめいた。


イキナリ帰って驚かそう!!

驚く稜の顔が目に浮かんで、思わず顔がニヤけてしまう。


連絡して、どっか街中で待ち合わせてからのデートというのもアリだけど。
結婚式やら引越やらで結構な金額を使い果たして。
それ以来すっかり稜は節約モードだ。
喜ぶだろうと外食デートしようと声を掛けても、逆に怒られてしまう。

2週間ほど前の、稜の誕生日の時も。
「プレゼントいらない」「花束も」「どこも出掛けなくていい」
と、ことごとく羚汰の提案を却下してきた。
「ケーキだけ買ってきて」
と、きたもんだ。
しかも「おっきいのはいらないよ。小さくていいからね!」とまで念を押されて。

どんだけケチモードなんだか。

じゃあ!ケーキだけでも!と思って、女子社員たちにリサーチして近場で美味しいケーキ屋を教えてもらい。
何日も前から予約して、小さいけど特別ホールケーキを作ってもらえた。

仕事の忙しい時期であったが、なんとか稜の誕生日のうちに家に着いて、ケーキを食べることが出来た。

ちいさなケーキに零れるほど色んなフルーツやらチョコの飾りが乗ってて。

開けた時のあの嬉しそうに驚いた顔が忘れられない。

上に乗った沢山のフルーツのセイでカット出来なくて、2人で直接フォークでつついて食べた。

そうやって食べてもフルーツが次々とこぼれて、稜はきゃあきゃあと嬉しそうにはしゃいでた。


「ふふっ」


やべ。

電車の中で思い出し笑いとか、ヤバイ奴じゃん。

何気に片手で口元を隠しながらも、緩めた頬が治らない。
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