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第5章 Matrimonio
12月に入ったある日、かなり緊張した面持ちで稜は街のとある場所に向かっていた。

駅から少し離れているその目的地は、普段乗りなれないバスを使うしかない。

稜が乗ったバスは、平日の昼過ぎだというのに人が多く。
着込んだコートやマフラーが、熱く感じるほどだ。

そうでなくても、なんだか熱っぽい。

息苦しさから、首元のマフラーを緩めた。

こう人が多くては、マフラーを外す動作もままならない。

でもやっぱり、外してしまおうか。

そう考えた時、バスは目的地に停車した。

人の波に乗ってバスを降りると、打って変わって冷たい風が頬を撫でる。

稜は石畳の上を足速に歩きながら、緩めていたマフラーを顔に近づけた。
もう建物だし、巻き直す程でもない。

建物の入口近くの柱に寄りかかって立っている人物を、少し遠くからも見つける事が出来た。

ほぼ同時に羚汰も気づいたらしく、こちらに向かってくる。

かなり待っていたのだろうか、羚汰の鼻が赤い気がする。

「...久しぶり」

「うん...」

言葉が出て来ないし、羚汰の顔がなんだか見れない。

「元気だった?」

「...うん」

一週間近く会ってなかったからか、なんだかぎこちなく感じてしまった。

何を話すべきか、戸惑ってしまう。

「とりあえず、入ろっか」

羚汰に抱え込まれるようにして、ビルの中に入った。

バスと違って建物の中は、暖房がそう効いてはないようだ。

「はぁ...。緊張、するね」

羚汰の口から思いもよらない言葉が出てきた。

「えっ!」

「なんだよ。俺だって緊張ぐらいするし〜」

とんがった口が、可愛い。

思わず笑いが零れてしまう。

「やっと笑ったね」

にっこり微笑む羚汰の手が、頬を撫でる。

ひんやり冷たいけど、懐かしい感触。

「すっげーチュウしたい」

「ダメだよ!」

顔が近づいてきて、慌てて胸を押す。

「うわ、ひでぇ!」

「だって!!...こんな場所で」

周りを見渡すと、入口にほど近い広間だからか、静かではあるが皆足早に移動し通過してゆく。

「ねぇ、羚汰。ひょっとして、風邪ひいてる?」

緊張がほぐれたからか、なんだか少し声に違和感がある事に気付いた。

「あー、ちょっと、鼻が出る。かな」

「ええ!明後日までには治してよ〜」

明後日は、ラコルテで結婚式だ。
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