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初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 恋の距離
通り掛かりの職人風の中年男が声をかけてくる。
「ニイちゃん、どした?」
「おじさん!彼女が、来年僕とお花見に行ってくれるって!」
「おお!この別嬪さんかい⁈そりゃ良かった!…しかし、あんた、来年って…若者なのに気が長いねえ…」

…もう、本当だよ…何で来年なのよ…。それまで何も誘わない気なの?
綾香は半ば腹立たしく思いながらも、そんな当麻の生真面目さが胸にじんわりと染み込む。
綾香はくすりと笑いながら
「…先行く」
と、すたすた歩き出す。
「ま、待ってよ、綾香さん!」
当麻が慌てて追いかけてくる。

…聖橋まで来ると、別れの時間が近い。
夕暮れの鐘を聞きながら、2人で神田川を見つめる。
桜はすっかり葉桜だ。
別れがたくて2人とも何となく寡黙になる。

「…そろそろ行かなきゃ…」
綾香が聖橋を渡ろうとする。
当麻がその華奢な腕を思わず捉える。
綾香の腕がびくりと震える。
「ごめん!綾香さん!でも…あの…!聞いて欲しいんだ…。僕は綾香さんが好きです!大好きです!だから…あの…僕と…つ、つ、つきあってもらえませんか…?」
綾香は、ゆっくりと振り返る。
そして当麻の姿をじっと見つめる。

すらりとした長身、端正に整った顔、帝大医学部に通い、家は東京有数の大病院を経営しているお金持ちで…
…どうしてそんなに自信なさげなの?
「…変な人…」
綾香は小さく笑う。
「…へ?」
「…ハンサムで頭が良くてお金持ちで…貴方ならどんなお嬢様だって喜んでつきあってくれるわ。…私なんか…」
「綾香さんがいいんだ!」
掴まれた腕が痛い。
「…貧乏なただの駆け出しの歌手…釣り合わないわ…貴方とは住む世界が違うもの…」
「綾香さんがいいんだ!綾香さんが好きなんだ!」
突然、息が詰まりそうな強い力で抱きすくめられる。
頭の中が真っ白になる。
「好きだ!好きだ!大好きだ!綾香さんが好きだ!」
当麻の腕の中で抱き潰されそうになりながら、綾香は視界がぼやけてくるのを感じた。
何だか分からないが泣けてくる。
綾香は当麻の胸を拳で叩く。
「馬鹿…馬鹿…馬鹿…!貴方なんか…!貴方なんか…!だいすき…だいすき…だいすき…!」
「綾香さん‼︎」
当麻が綾香を抱き上げ、抱きしめながらくるくると回転させる。
二人は額をつけながら泣き笑いした。
往来の人々が歓声をあげ口笛を吹き鳴らし、新しい恋人達の誕生を祝った。
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