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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 天使の手のひら
月城は梨央に吸い寄せられるように立ち上がり、近づいた。
小さな梨央と視線を合わす為に、膝をつく。
「…どうされたのですか?梨央様」
「お父様が、またお出かけになってしまったの…」
そう小さな声で呟くと、静かに泣きじゃくった。
月城は思わず、手を差し伸べて梨央を抱き上げた。
…なんて軽いんだ…。
まるで羽が生えた天使だ…。
さらさらの黒髪が月城の頬を撫でる。
柔らかい真っ白な肌、温かい手のひら、そして、花のような良い香りがする…。
月城はどきどきしながら梨央を抱きしめる。

漆黒の瞳に涙をいっぱい浮かべ、月城を見つめる。
「…お父様、今夜は梨央と寝てくださるって仰ったのに…」
余りの可愛らしさに月城は思わず笑みを漏らす。
「旦那様はお仕事がお忙しい方なのですね…。私のことを見出して下さった時もわざわざ遠くまで来てくださいました」
梨央はまだ潤んでいる瞳を見張る。
「月城のことも?」
「はい。…旦那様がいらして下さらなければ、今私はここには来られませんでした…。旦那様は私の命の恩人です」
「…お父様は良いお仕事をされているのね」
「はい」
しかし梨央は子供らしく駄々をこねる。
「でも寂しい。…お父様がいらっしゃらないの、寂しい」
月城は優しくあやすように話しかける。
「…私がお側におります」
「月城が?」
「…はい。私が梨央様のお側に、ずっとおります」
梨央はようやく笑った。
「…月城は梨央だけの騎士だから?」
「はい。…梨央様をお護りできる強い騎士になります…」
梨央が月城の頬に手を伸ばす。
温かい手のひら…。
天使の手のひらだ。

「…さっき、泣いていた?」
「はい…」
「月城も、寂しかったの?おうちを離れたから?」
労わるように梨央の手のひらが月城の頬を撫でる。
月城は胸の高鳴りを抑えながら答える。
「…はい。でももう寂しくはありません。…私には梨央様がいらっしゃいますから…」
梨央は少し照れたように微笑んだ。
「…お部屋までお送りしましょう」
梨央は素直に頷いた。
階下に佇む橘と目が合う。
橘は梨央を、愛しくて仕方ないような眼差しで見つめ、囁く。
「梨央様、よろしゅうございましたな」
梨央は月城の首筋に手を回し笑う。
「ええ。月城は梨央だけの騎士なのよ。すごいでしょ?」
月城は微笑を浮かべ、宝物を抱くように梨央を抱いて、ゆっくり階段を上がって行った。




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