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背徳のディスタンス
第2章 教育担当

「あの、堀内先輩。お客様に商品を説明する時の対応で、少しわからないところがあるので、あとで教えていただいてもいいですか?」

 平日の昼休み。奈々が同期の女子社員である平原穂波(ひらはらほなみ)と昼食を取っている時だった。
 食堂でそう声がかかる。
 振り向くと、奈々が教育係を任されている新人の男の子、望の姿があった。

「勉強熱心ねー。昼休みにわざわざ」

 穂波が感心したように言う。

「日野崎は真面目だものね。食べ終わったら教えてあげる。少し待ってて」
「はい、ありがとうございます! あの、ごゆっくりどうぞ。食事中にすみませんっ。向こうにいますね!」

 そうして振り向いた先には、望と同じ新人の男の子たち。彼の同期だろう。

「はいよ、わかった」

 奈々が片手をあげると、望はにっこりと微笑み深々とお辞儀をして去っていく。まるで営業まんさながらの綺麗なお辞儀だった。
 ここで使うのは主に声だけだから、そこまで硬くならなくても、とつい奈々は笑ってしまう。
 だけど望はいつも、社員の誰に対してもとても礼儀正しく、愛想も良かった。
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