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背徳のディスタンス
第4章 欲望の行方

 今日は土曜日なので、仕事は休みだった。けれどもまだ仕事が残っているため、会社へ向かう。
 基本的に休日出勤というのはなく、出勤時間もなかった。作業した分だけ残業として扱われる。
 奈々は十時頃会社に行き、タイムカードを押した。やり残した作業をするのにおそらく三時間はかからない。
 昼少し過ぎには会社を出る予定でいた。
 ところが。

「堀内先輩。おはようございます」

 背後からかけられた声。
 奈々は飛び上がりそうになった。
 振り向くとやはり望の姿があった。なぜ? と思う。
 今日は仕事は休みだ。平日の残業同様、新入社員は基本的に仕事をしてはいけない。

「ちょっと忘れ物しちゃって、取りにきただけですよ。そんなに怯えなくても」
「怯えてなんて……」
「……それとも、期待してるんです? また俺に何かされるの」
「な……」

 頬が熱くなった。怒りと……もう一つ別の感情が沸き上がってくる。
 望は軽く肩を進めてみせた。

「嘘ですって。スーツじゃない先輩初めて見ました。なんだか可愛いですね」
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