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Vesica Pisces
第1章 太陽×静寂=99…
「お世話になってないし!」

その手を払う未知はすっかり幼馴染の顔だった。

「初めてまして、く、が、よ、し、と、です」

長く骨ばった綺麗な指が、滑らかに文字を表す。

嘉登らがよく行くというその和食居酒屋は、家に居るかのような居心地の良さで、その場にいた豪華な面々との距離を一気に縮めてくれた。

俳優の橘 稜に、アーティストのジェソンを始めモデルやタレントなど、テレビで見る顔が揃っていた。

和可菜はちゃっかり稜の隣に座っていた。

「嘉登、手話なんて出来るの?」

「色んなお客さんが来るから、一通りは」

さらっと述べて、にこっと笑う姿に胸がときめかないなんて嘘だ。

面倒見がよくて、さり気ない気遣いの出来る、最高の男。

未知は後から嘉登をそう形容していたけれど、間違いはなかった。

視野が広くて、気配りがさり気なくて、優しくて。

イケメンなのに気取った所がなく、むしろおっちょこちょいなエピソードを自ら話して場を和ませる。

連絡先も交換して、その日から月に一、二度食事会という飲み会で会うようになった。

会う度に嘉登の優しさに勘違いしてしまわないように、言い聞かせる自分がいた。
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