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Vesica Pisces
第14章 太陽は静寂を切り裂く
翌日、未知が慌てた様子でフロアに入ってきて、あれよあれよと言う間に退勤させられた。

エレベーターを降りたところでその意味を知る。

有馬さんと英さんの間にいる透。

未知が二人を中へ促すと、透はいつも通り歩きだそうとするから、その裾を引き留めた。

繋がれた手は冷たかった。

『いつから待ってたの?』

「アイスコーヒー持ってたからだろ」

反対の手には薄くなったコーヒーに、僅かながらの氷が残っていた。

「なぁ、俺が居なくなっても大丈夫?」

冷たい手と、逸らされた視線。

いつだって真っ直ぐな透の瞳が揺らいでいた。

有馬さんと英さんと三人で居た光景が脳裏をよぎる。

きっと何か聞いたんだろう。

「と…っ…!」

言葉を発するより早く透の胸の中に押し込められる。

抱き締められた力強い腕と、透の匂いに包まれる。

視界を埋める透のTシャツから視線をあげたいけれど、押し込められて身動き出来ない。

その上、おでこに当たる透の喉仏が上下しているのを感じた。

ねぇ、透。

見えないから不安になるんだよ?

透は…不安にさせないように隠してくれたんだろうけど。

何を隠したの?わからないよ。
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