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Vesica Pisces
第16章 太陽は静寂を憂う
ガラス張りのエレベーター、病棟で止まるはずがボタンを押し忘れて一階ロビーまで下りてしまう。

ゆっくり開く扉に何気なく視線を移す。

「…っる…!」

声よりも、感情が身体を動かした。

「な、んでっ…!」

居るはずのない伽耶がそこにいた。

引き寄せて抱きしめれば、回された腕に確かにその存在と体温を感じて、その場に二人して崩れ落ちた。

「…ぃんだよっ…!?」

二人の間に隙間を作れば、伽耶は涙を浮かべてキスで塞いだ。

伽耶からのキス。

想いが溢れて、エレベーターの行き先ボタンをまた押し忘れてしまった。

どこの階だかで看護師が乗ってきて、びっくりしながらも身体を起こしてくれた。

そういえば体のあちこちが痛いのを思い出す。

手続きを済まして、病室を移動する間も伽耶の手を握っていた。

「あー、地味に痛ぇ…」

伽耶を抱きしめていた時には感じなかった痛みがあちこちに出てくる。

『大丈夫?』

「心配した?」

伽耶は答える代わりにぎゅっと腕を掴んで、顔を伏せて小さく頷いた。

「ゴメンな」

聞かなくても解る。

メールよりも何よりもここに伽耶が居る現実が全てだ。

一人で空を飛んできた…一人?か?
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