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Vesica Pisces
第17章 太陽は静寂に交わる
「手話、大丈夫ですよ」

先に薫に促される。

「猛はああ見えて心配性ですけど、僕は透と話して君を手放すわけないと思いましたので、手話覚えたんです、まぁ、まだ怪しいですが」

『そうなんですね、私、今回の事故で透とずっと一緒がいいと思ったんです、距離とかそういうのじゃなくて…透の一番近くにいて、何かあった時に最初に私を思い出して欲しいって』

「そうですね、透の頭の中は競技と君の2つしか無いと思います」

『私で…大丈夫ですか?』

一瞬目を丸くした薫は、ふっと目を細めた。

「透が決めた人ですから」

薫はそう言ってコーヒーを一口飲んだ。

「昔…透が初めてどこだかのFMXに出るって電話してきた事があったんです、15.6だったと思うんですが、何だかんだ叩かれて弱気になってたんですよ、その時電話口で言ったんです、俺で大丈夫かって」

同じセリフをあの透が?

「自分は好きな事をするだけだけど、家族が中傷されるのが堪らないなんて…あの時ずっと守ってやるって思ってたのは僕たちだけなんだと思いました、透はずっと早く成長して、肩を並べてたんだなぁって」

薫の嬉しそうで少し寂しそうな横顔は、やっぱり透に似ていた。
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