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Vesica Pisces
第21章 …1。
両手の指の付け根を一直線に走る傷痕。

「これでもちょっとした有名人だったんだよ、ピアノの世界じゃ」

傷痕とヴィクターを見比べる。

「コンクールでね、妬まれてたのは知ってたけど、まさかここまでするとはね」

ゆっくりと握り込まれる拳。

「ピアノが僕の全てだったのに…何もなくなってしまった」

「ヴィクター…」

掛ける言葉が見つからない。

「全部を恨んだ、何もかもを…僕にはもう何もない、生きてる価値さえ見出せない、そんな時にブリュノに誘われてトールのFMXを見た、凄かった、頭が真っ白になって、血が沸くっていうか…居ても立っても居られなくなって、気づいたらピアノに向かってた」

ゆっくりと手を開く。

「でもやっぱり弾けないんだ、前みたいには、今は趣味っていうかジャズを勉強してる、自由で枠がなくて思いついたままを音にして…楽しい」

「良かったね…」

「アイ、何故君が泣くの?」

「わからない、ごめんなさい」

「ありがとう」

ヴィクターは手を引かれるままにピアノに向かった。

「はい、この辺適当に弾いてて」

「え?!無理っ!ピアノなんて弾いたこと無いし!」

「適当でいーの!猫まみれね」
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