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Vesica Pisces
第3章 太陽は静寂を揺する
違う世界の人だった。

あの眼をどう忘れたらいい?

近づく方法なんてきっとない。

✳︎ ✳︎ ✳︎

稜たちとは子供みたいに無邪気な笑顔で話しているのに、ふと目が会うとその瞳には負の感情しか残らないほど険しくなる。

事情なんて知らない筈の彼に、なぜか耳のことを知られたくなくて話したい指先をなるべく動かさないようにしてしまう。

パークを走り回っていたあの真剣な瞳も、友人たちに向けられる天真爛漫な瞳も、そして…伽耶に向けられる鋭く射抜く瞳も、全部焼き付いてしまった。

が、彼はあっという間に帰ってしまった。

彼の名前と職業、そして明々後日にはまた日本から居なくなる、それだけしか知らない。

嘉登らの友人という事は、またいつか会えるだろうか。

けれど、唇の端に残って居た口紅を焦る様子もなく拭うだけ、きっとそういう相手が山程いるのも何となく気付いてしまった。

彼に会うまでは確かに肩を抱いて救い出してくれた嘉登にときめいていたのに、一瞬で全部塗り替えられてしまった。

アレックスが見せてくれた動画の検索ワードを密かに記憶して、そっと履歴を作った。

水嶋 透。

憧れるくらい構わないだろう。

「伽耶?大丈夫?」

不意に未知に膝を叩かれて顔を上げ、それと同時にスマホを急いで仕舞った。

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