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第5章 デート

「いや、起きてたけど……なに？」
「今日お店定休日でしょ。お茶でもしないかなと思って」
「お茶ぁ？」

前に雪乃が店に来た時のことを思い出す。
雪乃は散々元婚約者のグチを言って、最後に「まぁあたしも暇になっちゃったし、時間があったら遊んでよ」とか言って帰って行った。
俺は暇つぶしの道具じゃねぇぞと思ったけど、浮気されて独りになった雪乃を放っておくのもなんだか可哀想な気がして、俺は曖昧に頷いたんだった。

「あーいや、今日はちょっと」
「ふぅん～そっか、じゃあいいや。またね」
「おう」
またね、じゃねぇんだけどなぁ、と思いながら通話を切る。

……実際、雪乃は俺をどう思ってるんだろうか。
別れを切り出したのは向こうだ。
夜の仕事の俺とは時間が合わないとか、長く一緒にいすぎたとか、優しくて物足りないとか、色々言われて……。

「あーくそ」
俺は顔を両手でごしごし擦った。
それでも彼氏と別れたら会いに来るくらいにはまだ気持ちがあるんだろうか？
俺だって少し前までは引きずりまくってたわけだし……。

あー。タバコ、吸いてぇ……。
またぽわわ、と石井の顔が浮かぶ。
うん、そうだ、今日は石井と出かけるんだから。
切り替えよう。うむ。
飯の用意を整える頃にはもう雪乃のことは頭から消えていた。

こういうところが俺という男の駄目なところだと思い知るまであと数時間、の朝だった。