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禁煙チュウ
第6章 酒は飲んでも飲まれるな
目を覚ましたのは出勤時間ぎりぎりで、ダッシュで向かった店の前にはもう石井が立っていた。
階段を上がりきって顔を合わす。

「おはようございます」
「お、おは、おはよう」
石井はどもる俺を見てすっと目を逸らした。

「……あの、昨日は、ごめん」
こんな言い方じゃだめだと思いながら、石井の目を見られない。

「大丈夫、です」
肩の下から小さく石井の声が答える。
ドアの鍵を持つ手がうまく動かない。ガチャガチャやっていると、石井が小さく声を上げた。
「あ、宮田さん、猫……」
石井が指す方を見ると、この間の猫がまた同じ場所にいた。
「あぁ、ほんとだ」
「……でも、この前と違うみたい……」

目をこらすと確かに、一匹は前と同じ猫だったのに、それに寄り添うのは別の猫のようだった。柄が違う。
「……」
「……」
二人して黙り込む。

俺は覚悟を決める。ガチッと鍵が回ってドアを開き、店に入ると振り返って石井に告げた。
「あの、今日店終わってから時間ある?」
「はい」
一拍置いて石井が答える。
「話が、あるんだ」
「……わかりました」
石井の顔にめずらしく動揺の影が見えた気がした。

店なんか一日くらい閉めて、あのまま石井と話せば良かったのかもしれない。
そうすれば、あんな醜態はさらさなかっただろうに。
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