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17歳の寄り道
第5章 【碧編】ファザー・コンプレックス
「教師よりやりたいことがあるなんて、全然いい先生じゃないよね。だから、秘密ね」
と笑っている。

「やめちゃうの?先生を…」
「そうなるね。でも俺みたいな人間より、いい先生が来ると思うよ」

そんな…

「会えなくなるのやだよ。天文部もせっかく入ったのに…」

「白川は俺目当てで入ったんじゃないでしょう」
と、先生はくすくすと笑い、「浅野だろ?」と言う。


遥とはさっき、関係が破綻したばかりだったので口を噤んだ。
先生はそんな私を見て、ふっと表情を緩めて話し出す。

「年頃だし、付き合うなとは言わない。でも学校で危なっかしいことはするなよ」

何もかもを知っているような瞳で、少し真剣に私に語りかける。

危なっかしいこと…?
はっ、と思い当たった。

みんなが体育してる時間。窓に映った人影は…村上先生だった?


「み…見てたの?」

恥ずかしい。恥ずかしさで震えてしまう。あんなことしてる姿を、村上先生に―――。

「や、見たくて見たわけじゃないから。あの時いたのが俺でよかったと思ってほしいぐらいだよ」
「どこまで見たの?裸も?私、どんな格好――」

必死に聞く私に、村上先生は困り果てていた。


「だから…見られたくなかったら、あんな所で許しちゃだめだろ。って、浅野に言いたい所だけどさ、俺は言わないよ、誰にも。
……そんな顔しないで。余計な忠告して悪かった」


そう言われても、恥ずかしさで居たたまれないし、『あんな所で許しちゃだめ』という先生の言葉が心に突き刺さる。


私が自分で招いていることなんだ。
義父の言動だって、公園の事件だって。遥との事だって。
自分が引き寄せているんだ。少しは自覚がある。

一粒涙が落ちた。

頬杖をついていた先生は、指で、そっと伝う涙を拭きとってくれた。

「よく泣く」
「…自己嫌悪で泣いてるの」
「自己嫌悪?嫌悪しなくていいでしょう。嫌うぐらいなら、自分を大事にしなさいよ」
「それができないから困ってる…」

ぽろぽろ、涙は落ち続ける。
村上先生は、白衣からハンカチを出して、私の手元に置いた。


「危なっかしいなあと思うけど、俺は好きだよ。大事な生徒だよ」


教室は、夕陽で飴色に輝いている。

『好き』という言葉が、私の殺伐とした心を潤わせ、しばらく涙は止まらなかった。
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