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篠突く - 禁断の果実 -
第9章 過去編三話 守るということ
 夏なのに、冬のように冷えきった空気が悠の背中をぞわりと撫でた。スプーンで皿の中身をこそげ取る、カチャカチャという無機質な音が響く。
 夕飯の時刻になり、父と母、悠、孝哉の四人は、リビングのテーブルを囲んでカレーライスを食べていた。部屋の入り口を背にして右側に父、その隣に母。そして母の向かいには悠が、その隣には孝哉が座っている。父母の後ろにあるオフホワイトのソファーやガラス製の円卓、白い絨毯からは一切の温かみも感じられず、ただでさえ冷えた部屋をより一層冷たいものにしていた。
 効きすぎた空調は、この家族を象徴しているかに思えた。四人は無言で、単調作業のように、目の前にあるエネルギーの源を口に放り込んでいく。
 それだけならいつものことなのだが、今日の悠はひどく居心地が悪かった。昼間、孝哉から父母のことを聞いたばかりだからである。両親は、悠には家庭内暴力があった事実に気がつかれていないと思っている。父が母を殴っていたことも、父が弟を虐待していることも、母が弟を虐待していることも、全てだ。
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