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サキュバスちゃんの純情《長編》
第12章 性欲か生欲か

 晴れていれば夕日が沈むのが綺麗に見えるであろうオーシャンビュー。雨が降っているのが残念だ。景色は濃い灰色に塗り潰されている。
 大きなソファに、大きなダブルベッド。そのベッドの上にはテディベアがちょこんと乗っている。持って帰ってもいいらしい。
 部屋は――私の部屋が三つ分入るくらいの大きさだ。翔吾くんと健吾くんのマンションの部屋くらい広い。
 さすが、高いだけのことはある。
 洗面台が二つもある部屋なんて初めて見た。浴室はガラス張り。最近できたホテルではこういうのが流行っているのだろうか。
 部屋全体を見た感じ、たぶん、スイートルームだと思う。
 よく予約が取れたなぁ。三連休の中日なのに。台風が来るから、予約キャンセルがあったのだろうか。このホテルはクルージングを楽しむ人が多く利用するらしいから。

「ダブルベッド……」
「おっ、広いベッド! 望さん、三人で寝られそうだよ!」
「じゃあ、じゃんけんしなくて済むなぁ。さすがキングダブル」

 ええと、新幹線の中でどんな取り決めがあったのか、大変興味があります。ベッドを誰が使うのか、以外に、どんなことを話したのか知りたいです。とても。

「夕飯までまだ時間があるなぁ」
「日本酒があるよ、望さん!」
「夕飯の前に酔い潰れるなよ、翔吾」

 二人は、聞かない。なぜ私が尾道に来たのか、を。
 湯川先生は私の祖母の故郷だと思っている。翔吾くんはどうだろう。湯川先生から聞いただろうか。二人はただの墓参りだと思っているだろうか。

「あの」

 ソファに座り、デニムのクッションを抱きしめて、私は二人の顔を見比べる。日本酒を開けようとしていた翔吾くんは動きを止め、湯川先生はソファに座ってくれる。
 あぁ、今しかない。
 今しか、ない。

「大事な話があるの。聞いてくれる?」

 叡心先生とのことを話すには、今しかないのだ。

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