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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第8章 神として
 禊が紡ぐ詞と共に色を帯びる水の龍はやがて真の銀を纏い、その白銀の鱗に瑠璃と翡翠の耀きを宿す。
 そしてそれが角から尾の先まで箒星のように流れ、全身をその色に染め上がると──龍はまるで産声を上げるように高らかに吼え、長く空に肉叢(ししむら)を伸ばした。
 そして高天原の神も淡島の住人も……その次元の異なる空を見上げる。
 山に反響する神楽のように高天原の空にはその声が残響し、それによって喚び起こされた癒しと禊ぎの清らかな雨が淡島に降る。
 龍の昏に呑まれた魂は還され、再び稚児と斎人の姿に転じていた蛙達の前で息を吹き返した。或いは人々の前で芽吹き、水筋のような根を張り天に突き抜ける幹を成し、梢を湛え花を咲かせては実をつける。
 八衢の砂浜でそれを仰いでいた巫女達は涙を溢して地に項垂れた。彼女らを責めることができる者は、誰一人としてここにはいなかった。

 「……ありがとう」
日嗣は腕に抱いた少女を更に抱き寄せ、立ち上がる。
 そして添うように、少女の濡れた髪に自らの頬を寄せ、慈しみの声でそれを囁いた。
 「……ありがとう、神依。……約束だ、褒美をやる」
 気を失ったままの神依は何も答えない。ただ力を無くした指先から離れた神楽鈴が、川の音に紛れ水底へと落ちていった。

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