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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第9章 穂向け
【1】

 日が暮れる頃には、淡島にも静寂が戻っていた。
 龍神の神威は淡島のほぼ全てを包み、その名残を美しく残した。地にも池にも、木の上にさえも。水をそのまま固めたような水晶がそこかしこに転がり、夜天光を反射して煌めいている。
 儀式の後、それを踏みしめ家路についた人々は言葉少なく……ただ呆けたように在る者も、やり場の無い怒りにぎゅっと唇を噛む者も在った。
 天孫に抱かれ、救われた巫女をもはや誰が害することができようか。しかもその巫女の失態は仕組まれたもので、彼女自身は潔白であったと知れば……もはやその巫女を責めることもできないし、その寵愛を妬むにも人目が憚られる。
 それはもう、人の手にはどうすることもできないものだった。
 
***

 宵の口──童は月明かりを頼りに、黙々と庭に散らばるその極上の水晶を拾い集めていた。その傍らでは子龍も嬉しそうに粒を呑んでいる。
 それは人が触れなければやがては水となって霧散するというから、玉造府の方では総出で淡島を巡っているという。
 自身が呼ばれなかったのは、もちろん今回の騒動の当事者であったからだ。
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