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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 聖夜の恋人
「…私はかつて、ある方に密かに恋心を抱いたことがございました。…ずっと…心の奥底に秘めた恋でした。恋することは到底許されない方だったからです」
縣ははっと息を呑む。
「…月城…やはり君は…」
月城は表情を変えずに続ける。
眼鏡越しの端正な瞳には昔を懐かしむような…しかし寂寥の色が透けて見えた。
「その方がご婚約を決められた前夜、私はその方に自分を連れて逃げてほしいと懇願されました。…ご婚約される方がお嫌だったわけではありません。どちらと決めることができないと苦しんでおられたのです…」
「…月城…」
縣は瞬きするのも忘れ、月城を食い入るように見つめる。
暁も直感的に、兄と月城の共有する事柄だと察知し、黙って事の成り行きを見守る。
「…私を連れて逃げて…誰も知らないところへ連れて行って…。その方は泣きながら私に縋り付かれました」
「…君は…?」
月城は静かに首を振る。諦観と優しさと哀愁の…深い深い表情だ。
「…私はその方の手を取る事はありませんでした…。誰よりも…私の命を捧げても惜しくはない方でした。けれど私は、その方と何もかも捨てて逃げ出すことはできなかった…。
その選択を私は後悔してはいません。なぜならば、その方は今、最愛の方に巡り会えてお幸せになられたからです」
…白薔薇の君よ…
とこしえに結ばれることのない儚い恋よ…
「けれど私はふと思うのです。…もしもあの時、あの手を取っていたら…と。私には別の人生があったのではないだろうかと…」
「…月城…」
月城が強い光を宿した眼差しで縣を静かに見つめた。
「縣様はお優しいお方です。お優しさゆえに、相手の方のお気持ちを先回りして考えすぎてしまわれることがおありです。ご自分のお気持ちを殺して、相手のお気持ちを尊重なさろうとする。…しかしそれでは相手の方には縣様の本当のお気持ちは伝わりません」
「しかし…」
躊躇し口を噤む縣に、月城は重ねて強い口調で告げた。
「…縣様がいらしたあの日、光様は泣いておられました。私はあのような悲しい泣き方をされる光様を初めて拝見しました」
「光さんが!」
光さんの涙…私が泣かせてしまったのか…!
「光様をお幸せに出来る方は、縣様なのです。他のどなたでもなく…貴方様だけなのです」
「月城…私は、まだ間に合うのだろうか…」
…まだ彼女を取り戻すことができるのだろうか。
月城は頷き、微笑んだ。
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