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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第5章 聖夜の恋人
縣は大広間の扉を、大胆に押し開けた。
ノックもせず、こんな無作法な行動をするのは生まれて初めてだ。
今、正に料理のワゴンからスープをシェアしようとしていた若い下僕が、突然現れた縣に呆気にとられ口をぽかんと開ける。

広間の縦長のテーブルには真っ白なリネンが敷かれ、向かい合わせにそれぞれ両家の人物が並んでいた。
…光は、京友禅の華やかな綸子縮緬の振り袖を着て髪を美しく結い上げていた。

いきなり現れた縣を信じられないように、大きな瞳を見開いて見つめた。
そんな光に縣は叫んだ。
「光さん!私と、結婚してくれ!」
「…縣さん…!」

テーブルに並ぶ一同からざわめきと悲鳴が上がる。
「…あ、貴方は何なんですの⁈突然に…!」
見合いの相手の母親と思しき人物が眉を吊り上げる。
縣は光しか目に入らない。
光に近づき、手を差し伸べる。
「…光さん、愛している。君が誰を愛していても私は君を愛している。私にチャンスをくれないか⁈」
光は声も出せないほど驚き、小刻みに震え始める。
光の隣の麻宮侯爵が苦虫を噛み潰したような顔で、縣を制する。
「縣男爵!君ともあろう人が何という無作法をしてくれるのだ。光は今、見合い中なのだぞ」
縣は麻宮侯爵に丁重に詫びるが一歩も引かない。
「申し訳ありません。侯爵。しかし私はこのお見合いを壊しに参ったので帰る訳にはまいりません」
「な、なんですって⁈」
着飾った相手方の母親は目を吊り上げて怒る。
肝心の当人は余りの出来事に目を白黒させ、声も出ない様子だ。

縣は再び光に近づき、手を差し出す。
「…愛している。光さん。ずっと伝えたかった…。あの夜からずっと…」
「…縣さん…」
光の大きな琥珀色の瞳から涙が溢れ出す。
左隣の付き添いで参席している妹の翠が頬を紅潮させ、うっとりする。
「やだ…縣様、すてき…!」
麻宮侯爵がジロリと翠を睨みつける。
「…私と一緒になってくれ。…私は君と一緒に生きていきたい」
縣の大きな手に光の白く嫋やかな手が伸ばされる。
縣が力強く光の手を引き寄せ、胸に抱き寄せる。
「…愛している。君は…どうかな…その…少しは私のことを…好きかな…?」
気弱な眼差しの縣に光が自分からくちづけをした。
見合い相手の親子から悲鳴が上がる。
「…愛しているわ、もうずっと前から…!鈍感さん!」
泣き笑いする光を、縣は愛おしげに強く抱きしめる。



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