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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第1章 ムーランルージュの夜
「アガタ、今夜は飲もう!仕事もなにもかも忘れて飲み明かそう!」
パリの18区、モンマルトルにある高級キャバレー「ムーランルージュ」でジュリアンは早速注文をしたシャンパンのグラスを高々と上げた。
縣は苦笑しながら、素直にジュリアンの乾杯を受ける。
「せっかく花の都パリに来たのに、君は毎日仕事仕事…!本当に日本のサムライは真面目すぎる」
華やかな金髪を揺らし、碧の目を見張りながら大袈裟に首を振る。
「私は侍じゃない。バロンだ。
…最も、父が軍需産業でようやく稼ぎ出した爵位だけどね」
訂正すると、ジュリアンは「どっちでもいいじゃないか」と言うように肩をすくめてみせた。

ジュリアン・ド・ロッシュフォールは東京での縣の乗馬仲間であり、社交界での友人でもある。
父親が日本駐在のフランス人外交官、母親が九州の島津家ゆかりのお姫様という進歩的な結婚から生まれたジュリアンはその華やかな容姿や日本語、フランス語、英語を巧みに操る明るく屈託のない性格で、日本の貴族社会でも人気者であった。
また、少し年長の縣を兄のように慕い懐いていた。
縣もジュリアンを弟のように可愛がっていたが、2人が特に親密な関係になったのには訳があった。

「…梨央さんはお元気かなあ…。ああ!もう半年もお会いしていないなんて…!恋しさで僕の胸は張り裂けそうだよ」
ジュリアンの目は哀しげに曇る。
「お元気だよ。…相変わらず、綾香さんと仲睦まじい。羨ましいほどにね…」
元々縣の婚約者だった美しき伯爵令嬢、北白川梨央のダンス教師を引き受けた縁で梨央に一目惚れしたジュリアンだったが、梨央の異母姉妹の綾香に猛烈に求愛を阻まれ、敢え無く玉砕したのだった。
大袈裟に憂いのため息を吐くジュリアン。
「…あのジャンヌダルクのように勇ましい姉上か…。
ちょっとでも梨央さんに近づこうとすると物凄い勢いで突進してきて僕を突き飛ばしてくるし…いや、ジャンヌダルクなんてものじゃない。闘牛だ、闘牛!」
憤然とシャンパンを飲み干すジュリアンにやや同情的な眼差しを送り、縣は華やかなステージを眺めながらぼんやりと日本に思いを馳せる。
…梨央さんとの婚約を解消して、もう一年経つのか…。
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