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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
「光さんは、彼のどこを好きになったの?」
途端に光の瞳が夢見るように輝き出す。
「…私ね、実は絵がとても下手なの。それが悔しくて画塾に通いだしたのだけれど、ある日フロレアンが臨時に私のクラスを教えに来てね。…あんなに綺麗な男の人に下手な絵を見られたくなくて、私、必死で絵を隠したの」
「…へえ…。光さんでもそんなことをするんだ」
…なんだか意外だな。
「そうしたら、フロレアンが無理やり私の絵を見て…」
光の頬が薔薇色に染まる。
恥ずかしそうな表情…。
まるで不器用な少女だ。
こんな表情をフロレアンにも見せたのだろう…。
「すごくいい絵だ!素直で誤魔化しがなくて、僕はこの絵が大好きだ…て言って笑いかけてくれたの…」
「…へえ…。彼は絵じゃなくて君が目的だったんじゃないのか?」
少し面白くなくて縣は皮肉めいたことを口にする。
「…そうかも…すぐに、君みたいに綺麗な色彩だね…て褒めてくれたわ…」
うっとりとした目をする光には皮肉は届かない。
…あの跳ねっ返りの辛辣なお嬢様にこんな表情をさせるんだから大した奴だな…。
縣は美しいお伽話の絵本から抜け出てきたようなフロレアンを思い浮かべた。
…確かに美男子だったな。
金髪に碧眼…背も高く目鼻立ちも華やかで…
とても似合いの二人だった。
「日本の社交界の花、麻宮光様も恋をするとただのうぶな女の子になってしまうのだね」
つい素っ気ない口振りになってしまう。
「それが恋と言うものじゃない?縣さんも恋をしたら私みたいになるわ」
「そうかな…。私はリアリストなんだ。多分ならないな」
「私もそうだったわ。フロレアンに出会う前は…。恋は暇つぶしにすぎなかった。誰とつきあっていてもずっと冷めていたわ。…でも今は違うの」
光は白く美しい手を額にかざし、真っ直ぐに前を見る。
「私には夢があるの。それはフロレアンの絵を世に出すこと。彼を一流の画家にすること。…その為にはどんなこともしてみせる。どんな苦難も乗り越えてみせるわ」
縣は眩しげに光を見つめた。
「君は変わったんだな…自分より他人のことを思い遣れる人になった。…恋は偉大だ」
光は縣の言葉を受け、少し照れたように笑った。
それはとても綺麗な笑顔で、縣の胸は少しだけ切なく疼いた。





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