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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
臙脂色の帽子に、同色の上着とスカート。上着の胸元には高価なピンクカメオが飾られ、きちんと手袋を付けている。
髪は一筋の乱れもなく結い上げられ、清楚に纏められていた。
パリの最先端ファッションではないが、気品と裕福さを感じさせる服装をした令嬢…アンリエットは帽子の影からそっと、光を見つめていた。
光がそれに気づき目を合わせると、慌てたように視線を逸らせた。

フロレアンは無邪気に光をアンリエットにも紹介する。
「アンリエットさん、恋人のヒカルです。アンリエットさんよりは2歳年上かな。
ヒカル、僕が家庭教師をしているアンリエットさんだ。アンリエットさんは本当に絵がお上手なんだ」
光はにっこりとアンリエットに微笑みかけ、手を差し伸べた。
アンリエットは口元でぎこちなく笑い、おずおずと差し出された手を握った。
革の手袋に包まれた小さな手は冷たく強張っていた。
「…初めまして、マドモアゼルアンリエット。ヒカルです。お会い出来て光栄です」
「…初めまして…。私もですわ、ヒカルさん」
フロレアンは優しくアンリエットに話しかける。
「ルーブルはどうでした?モナリザはご覧になれましたか?」
途端にアンリエットの頬が薔薇色に染まる。
「素晴らしかったです!他にも数々の名画が…!…でも…本当はフロレアン先生に解説していただきながら鑑賞したかったです…」
アンリエットの鳶色の瞳が訴えるようにフロレアンを見上げる。
「申し訳ありません。今回はご一緒できなくて…」
フロレアンが詫びるのに、マレー子爵が取りなすように話しかける。
「…フロレアン先生は今回は休暇でパリに戻られたのだ。我儘を言ってはいけないよ、アンリエット」
「…ええ…お父様…」
「それに…」
マレー子爵は光を見て穏やかに微笑む。
「先生とヒカルさんの貴重なお時間を邪魔してはならない。さあ、我々はもうホテルに向かおう」
「…ええ、そうですわね、お父様…」
アンリエットはまだフロレアンを見つめたまま、何か言いたげに瞬きをした。
「アンリエットさん、次回は私もご一緒して解説いたしますよ。…オランジュリー、オルセー…パリにはまだまだ魅力的な美術館がありますからね。私の出番は沢山あるはずです」
フロレアンがウィンクしてみせると、ようやくアンリエットは小さく微笑し、頷いた。



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