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第3章 16区の恋人

16区のロッシュフォール別邸に縣と光が帰宅したのは、日付けが変わる頃だった。
アンヌの出迎えはなく、小さな灯りだけ付いた玄関ホールに入ると、縣が合点がいったように呟いた。
「…そうか。今夜はアンヌやメイドはロッシュフォール本邸の夜会の手伝いに駆り出されていたのだな…」

光がその白くすべらかな肩からストールを外しながら大らかに叫ぶ。
「伸び伸び出来るのはいいけれど、お腹が空いたわあ…。お父様が気になって食事も喉に通らなかったもの」
縣が思わず笑い出す。
「確かに今夜は晩餐会どころではなかったからね」
そして、黒い燕尾服の上着を脱ぐと快活に言った。
「よし、では私が何か作ろう」
光が振り返り、驚いたように縣を見上げる。
「縣さん、お料理まで出来るの？」