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belle lumiere 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 16区の恋人
「…で?そのまま行かせちゃったの?ヒカルを」
縣の居間でアンヌにお茶を運ばせたのち、彼女が退出するのを見るや否や、ジュリアンは待ちきれぬように尋ねた。
身嗜みの良い縣はもう普段着のシャツにベージュのカシミアのセーターに着替えている。
しかし病み上がりのため、やつれた面差しがより一層精悍さを増していた。
縣は整髪料をつけていないために溢れ落ちる前髪を、煩さ気にかきあげた。
「それはそうさ。…二人は恋人同士だからな」
縣はアンヌの心尽くしのホットレモネードを口に運ぶ。
「なんだよ、それ。何かっこつけてるのさ!」
ジュリアンが珍しく怒ったような口調でテーブルに拳を叩きつける。
「アガタはそれでいいの⁈アガタはヒカルが好きなんだろう?」
「…何を馬鹿なことを…」
眼を逸らせる縣にジュリアンは強く問いただす。
「分かってるよ、アガタがヒカルを好きなことなんて。アガタのヒカルを見る眼で分かる。
…アガタはヒカルがこの屋敷に来てから凄く楽しそうでさ…ヒカルと喧嘩してても生き生きしてた。それはヒカルも同じだ。…二人は惹かれ合ってる。そんなことお互い分かっているだろう?なぜ素直になれないんだよ!」

縣は静かに口を開く。
「…例えそうだとしても、光さんにはフロレアンがいる。愛し合っている恋人同士だ。…私が光さんに告白したとしてどうなる?…彼女を苦しめるだけだ。
…私は、苦しむ彼女を見たくない。…光さんはああ見えて実は繊細な優しい人だ。恋人を裏切ることなど出来ないだろう」
「…アガタ…。アガタはそれでいいの?」
縣は穏やかに笑う。
「…私は誰も傷つけたくないんだ。私が幸せになることで誰かが傷ついたり、誰かが苦しむことに耐えられない。…だから、これでいいんだ…」

そう…。今までもそうしてきた。
梨央さんを諦めた時もそうだった。
彼女の苦しむ顔は見たくなかったから…。

…だからこれからもそうするだけだ。
同じ生活が続くだけだ。
私はそういう生き方しかできないのだ。

縣は複雑な表情をするジュリアンに笑いかけた。
「…馬鹿だよ、アガタは…。本当に馬鹿だよ」
ジュリアンは少し泣きそうにそう呟いた。
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