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恋いろ神代記~神語の細~
第1章 初髪、初鏡
 そうすれば、禊や童ももう半日余分に余暇を取れるだろう。これももしかしたら、年神様のご神徳かもしれない──と神依は大きく頷くと、日嗣に手を振って初瀬の元に戻る。
 「二人して悪巧み?」
「違います。常にお側にあってお酌して、しっかりとお尽くしするようにと仰せつかりました」
「へー。……嘘つきには、お仕置きだよ?」
「嘘じゃありません」
 強いて言うなら、ものは言い様。
 ムニュムニュと何かを掴む動きを見せた手をはたき、神依はそれでもにこにこと笑みを浮かべて初瀬の傍らに添って歩く。
 少し進めば美しい花や蝶の姿が増えて、普段は見られない鮮やかな彩りが淡島の中心部を満たしていた。
 ハレの日。
 その清らかな日に降臨する神に、人々の目が留まる。
 その姿は静謐で高潔で、けれども目や口元には晴れやかな喜びや楽しみも浮かばせていた。
 神々の血を混じらせ、それに準ずるほどの歳月を生きる彼らでも、その始まりの日を日常に埋めてしまうことはない。
 志を新たにし、それを恥じることなく、生すら変える機会を与えてくれる特別な時。それは万人に許された、平等な福。
 ──新しい年が、始まった。


2018.2.4
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