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暁の星と月
第3章 暁の天の河
縣家の別荘に訪れるのは一年ぶりだ。
大紋はフォードの運転席から降り立ち、屋敷を見上げる。
軽井沢の高原の樹木に良く合うように設計されたスイスやオーストリアなど欧州の邸宅をアールデコ調にアレンジしてある瀟洒な建物だ。
縣家はここと、浅間山の麓にもチロル地方の山小屋風の別荘を所有している。
出迎えた下僕に車の鍵を手渡していると、玄関から暁が現れた。
暁は大紋の姿を見ると、嬉しそうに近づいてくる。
正装した暁は、まるで産まれながらの貴族の青年のように美しく気高く品位のある姿だ。
たった三年前には浅草の貧乏長屋で貧困に喘いでいた少年だったなど、とても俄かには信じられないほどである。
昼日中の陽光の中で見る暁の美貌は眩しいほどに輝いていた。
大紋は暫し彼の美貌に見惚れた。
「ようこそいらっしゃいました。春馬さん」
少し他人行儀に言う暁はそれでもそっと大紋の手を自分から握りしめた。
言葉を発しない大紋にやや怪訝そうな貌をする。
「…春馬さん?」
大紋は苦笑しながら、暁の華奢な手を握り返す。
「…君が余りに美しく、臈丈ていて見惚れたよ…。綺麗だ、暁…」
暁は透き通るように白い頬を薔薇色に染める。
「…会いたかったよ…」
繊細な造り物のような耳元にそっと囁く。
「僕もです。…会いたかった…」
暁の黒い瞳はしっとりと潤み大紋を見つめる。
その嫋嫋とした貌を見ているだけで、欲情を覚えてしまう自分を大紋は苦笑する。
そんな男の心情を察知したかのように、暁が大紋の耳元に囁き返す。
「今日のお茶会が終わったら、春馬さんと一緒に別荘に帰ります」
「本当に?」
大紋は眼を見張る。
「…はい。…我儘を聞いて下さって、ありがとうございました。…兄さんと久しぶりにゆっくり話せて楽しかったです。春馬さんのお陰です」
律儀に礼を言う暁の健気さに胸が疼く。
こんなに喜ぶならもっと快く送り出してやれば良かったと自分の狭心に後悔する。
「…いや、暁が楽しかったのなら何よりだ」
下僕は大紋の車を駐車場に停めに行った。
奇跡的にこの場には大紋と暁の二人きりになった。
大紋がそのまま暁を引き寄せ、そっとくちづけしようとしたその時、玄関の重い扉が再び開く気配がした。
大紋は素早く暁から離れた。
「…やあ、春馬。良く来てくれたね」
礼也が堂々と燕尾服を着こなした水際立つような美丈夫ぶりで現れた。
大紋はフォードの運転席から降り立ち、屋敷を見上げる。
軽井沢の高原の樹木に良く合うように設計されたスイスやオーストリアなど欧州の邸宅をアールデコ調にアレンジしてある瀟洒な建物だ。
縣家はここと、浅間山の麓にもチロル地方の山小屋風の別荘を所有している。
出迎えた下僕に車の鍵を手渡していると、玄関から暁が現れた。
暁は大紋の姿を見ると、嬉しそうに近づいてくる。
正装した暁は、まるで産まれながらの貴族の青年のように美しく気高く品位のある姿だ。
たった三年前には浅草の貧乏長屋で貧困に喘いでいた少年だったなど、とても俄かには信じられないほどである。
昼日中の陽光の中で見る暁の美貌は眩しいほどに輝いていた。
大紋は暫し彼の美貌に見惚れた。
「ようこそいらっしゃいました。春馬さん」
少し他人行儀に言う暁はそれでもそっと大紋の手を自分から握りしめた。
言葉を発しない大紋にやや怪訝そうな貌をする。
「…春馬さん?」
大紋は苦笑しながら、暁の華奢な手を握り返す。
「…君が余りに美しく、臈丈ていて見惚れたよ…。綺麗だ、暁…」
暁は透き通るように白い頬を薔薇色に染める。
「…会いたかったよ…」
繊細な造り物のような耳元にそっと囁く。
「僕もです。…会いたかった…」
暁の黒い瞳はしっとりと潤み大紋を見つめる。
その嫋嫋とした貌を見ているだけで、欲情を覚えてしまう自分を大紋は苦笑する。
そんな男の心情を察知したかのように、暁が大紋の耳元に囁き返す。
「今日のお茶会が終わったら、春馬さんと一緒に別荘に帰ります」
「本当に?」
大紋は眼を見張る。
「…はい。…我儘を聞いて下さって、ありがとうございました。…兄さんと久しぶりにゆっくり話せて楽しかったです。春馬さんのお陰です」
律儀に礼を言う暁の健気さに胸が疼く。
こんなに喜ぶならもっと快く送り出してやれば良かったと自分の狭心に後悔する。
「…いや、暁が楽しかったのなら何よりだ」
下僕は大紋の車を駐車場に停めに行った。
奇跡的にこの場には大紋と暁の二人きりになった。
大紋がそのまま暁を引き寄せ、そっとくちづけしようとしたその時、玄関の重い扉が再び開く気配がした。
大紋は素早く暁から離れた。
「…やあ、春馬。良く来てくれたね」
礼也が堂々と燕尾服を着こなした水際立つような美丈夫ぶりで現れた。