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暁の星と月
第4章 夜啼鳥の夢
…その夜、松濤の縣男爵家は華やかなシャンデリアの灯りがその屋敷中に灯り、車寄せには高級舶来車が賑々しく並び、外の警備をする下僕にまで華やかな音楽と、賑やかな笑い声が響いていた。

「…こんなに大々的な夜会は久しぶりだな」
来賓の車の整列を終えると、下僕長の植田は新入りのフットマン、仲村を伴いながら、ホールに入る。
奥の大広間からは、カルテットが奏でる優雅なモーツァルトの音楽、紳士、淑女が笑い、さざめく声が聞こえて来る。
淑女達が付けている高価な外国製の香水の香りが玄関ホールまで漂い、新入りの仲村は思わず胸をときめかす。
「…今夜はこちらのご次男の二十歳のお誕生日会…でしたっけ?…暁様…凄く綺麗な人ですよね…」
仲村はこの屋敷に雇われた翌日、朝食の席で暁に緊張しながら挨拶をした時のことを思い出す。

初冬の透明な朝の光に照らされた暁は、目が醒めるように美しい青年だった。
…まるで美しい絵画から抜け出して来たような人だ…。
暫し見惚れる新人のフットマンに暁はリラックスさせるように笑いかけた。
「…こちらこそよろしくね。最初は慣れなくて戸惑うかもしれないけれど、男爵はとてもお優しい方だし、使用人の人達も皆良い人ばかりだよ。頑張って」

…天使のように微笑まれ、仲村はうっとりと見つめてしまい、執事の生田に咳払いをされた。

朗らかな美声の笑い声が響く。
上座に座っていたこの屋敷の主人…縣男爵。
…この人物も驚くほどの堂々たる風格を兼ね備えた美男子だ…が、可笑しそうに笑っていた。
「暁、お前が余りに美しくて見惚れているよ。…仲村、暁の美貌に見惚れるのは構わないが、業務を滞らせないようにな」
慌てて頭を下げる仲村。
暁が恥ずかしそうに声を放つ。
「兄さんたら…。やめてください。恥ずかしい」
縣男爵…礼也は可愛くて堪らないように暁を見る。
「人間、男女問わず美しいものには弱いのだ。それが人間の理だ」
「…もう…朝から揶揄ってばかり…」
軽く睨む振りをした暁の目は艶やかで、男の仲村から見てもドキドキするようなものだった。
暁は嬉しそうにそのまま、礼也に話しかけていた。
礼也も、穏やかに笑いながら暁の話を優しく聞いている。
…随分仲睦まじいご兄弟だな…。
以前勤めていた家は侯爵家だったが、ご兄弟は他人のようによそよそしかった。
たがら仲村は、二人の仲の良さにひどく感心したのだ。


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