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暁の星と月
第5章 後朝の朝
「兄さん!お帰りなさい!」
暁が車寄せに着いたのと同時にメルセデスのドアが開き今、正に礼也が降り立つところであった。

「ただいま、暁」
礼也は暁を見つけると、その雄々しく端正な貌を綻ばせ笑った。
暁は礼也に駆け寄り抱きついた。
「早かったですね!お帰りは明日かと思っていました」
「汽車の煤だらけだ。お前が汚れてしまうよ」
苦笑しながら気遣う礼也に嬉しそうに首を振る。
「いいんです。…兄さんが早く元気にお帰りになって嬉しい!」
暁は礼也をドキドキするような嬉しさで見つめる。
煤などちっとも付いていない。
身嗜みのよい礼也は汽車から降りたらきちんと身繕いをしている筈だからだ。
「視察が早めに終わったから、1日早く帰ってきた。
…暁に会いたくてね」
「嬉しい…!」
暁はぎゅうっと礼也の逞しい身体に抱きついた。
兄の舶来のトワレが鼻先を掠める。
…兄さんの匂いだ…。
暁の心は例えようもない安心感と高揚感に包まれる。
兄の胸はいつも広くて暖かくて良い薫りがする。
うっとりと身体を預けていると、礼也が愛おしげに暁の貌を覗き込んだ。
「…暁、会いたかったよ。よく貌を見せてくれ。…ああ、相変わらずお前は美しいね。お前の貌を見ると疲れが消えるよ。…練絹のような白い肌、しっとりとした黒い瞳、可愛らしい鼻、そして花のような唇…。また綺麗になったな、暁…」
「…兄さん…」
暁は頬を染めて礼也を見上げる。

「…なんだこれ…」
玄関に生田と並んで佇み、兄弟の再会の光景を見ていた大紋は憮然とした声で呟く。
「…何のラブシーンだよ…!」
「礼也様が長期出張からお帰りになった時はいつもこうでございます」
生田が丁重に、しかし淡々と答える。
「…へ⁈」
「暁様は礼也様から離れませんし、礼也様もそれはそれは愛おしげに暁様を可愛がられておられます。
…屋敷の者は、お二人はまるで恋人同士のように仲睦まじいと感心しております」
大紋は聞き捨てならないと眉を顰める。
「恋人同士⁉︎」
「…礼也様は暁様を殊の外可愛がられておられます。
…僭越ですが、礼也様は暁様をご自分が手塩にかけて育てられたお美しく完璧なご自慢のお嬢様のように愛でておられる節がございます。普通のご兄弟以上に濃密な関係性を感じます。
…暁様のお美しさにはそうさせる魔力のようなものがあるのでしょう」
実に賢明な執事だと大紋は感心した。



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