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暁の星と月
第6章 その花のもとにて
馬場の桜は早くも三分咲きになっていた。
…もう桜の季節か…。
ぼんやりとその薄紅色の花を見上げる。
「お待たせいたしました。縣様」
最近入ったばかりらしいまだ若い馬丁がアルフレッドを馬房から連れて来る。
暁は、愛馬を見るとその艶やかな目元に笑みを浮かべた。
「アルフレッド!」
アルフレッドは暁を見ると嬉しくて堪らないように鼻面をすり寄せて来た。
「アルフレッド、くすぐったいよ。…元気だった?…試験で暫く来られなかったんだ。…ごめんね」
優しく話しかける暁の美貌に新入りの馬丁は思わず見惚れる。
「アルフレッドの艶がすごくいい。ちゃんとブラッシングしてくれていたんだね。ありがとう」
美しく澄んだ黒い宝石のような瞳を向けられ、礼を言われて馬丁はドギマギする。
「い、いいえ…」
…まるで人形みたいに綺麗な人だ…。
先月、北海道の田舎から出て来たばかりの馬丁は、目の前にいる中性的な透明感と艶に満ちた美青年を目の当たりにして、手綱を持つ手が震える。
ここは富裕層専用の乗馬倶楽部なので、この一カ月で馬丁も、ある程度の容姿が整った美しい令嬢や夫人は見慣れてきた。
しかし、この縣男爵家の末弟だという美貌の青年だけは、何度見てもその類稀なる美しさと、どこかひんやりとした妖しい色香に見慣れることができない。
今も手綱を渡そうとして、その白く美しい華奢な手を思わず握りしめてしまい、大慌てで詫びる。
「す、すみません…!」
真っ赤になって頭を下げる馬丁に、暁は微笑んだ。
「アルフレッドに親切にしてくれて、ありがとう。…これからもよろしくね」
優しい言葉に、馬丁はうっとりしながらお辞儀をするとふわふわとした足取りでその場を後にした。
暁はアルフレッドの鬣を直してやり、
「さあ、今日は久しぶりに馬場馬術の稽古だ。アルフレッド、物足りないかも知れないけれど、一緒に頑張ろうね」
鞍に手をかけ上がろうとした時、暁の背後から水仙のように清廉な薫りがしたかと思うと、密やかな美声が耳元に響いた。
「…鞍の金具はもう少ししっかり締めた方がよろしいです。…落馬されたら大変だ」
暁の目の前に美しくしなやかな手が伸び、鞍が的確に設置し直された。
驚き、振り返る。
「…月城!」
乗馬服を見事に着こなした北白川伯爵家の美貌の執事、月城が暁を見下ろして静かに微笑んでいた。
「ご無沙汰しております。暁様」
…もう桜の季節か…。
ぼんやりとその薄紅色の花を見上げる。
「お待たせいたしました。縣様」
最近入ったばかりらしいまだ若い馬丁がアルフレッドを馬房から連れて来る。
暁は、愛馬を見るとその艶やかな目元に笑みを浮かべた。
「アルフレッド!」
アルフレッドは暁を見ると嬉しくて堪らないように鼻面をすり寄せて来た。
「アルフレッド、くすぐったいよ。…元気だった?…試験で暫く来られなかったんだ。…ごめんね」
優しく話しかける暁の美貌に新入りの馬丁は思わず見惚れる。
「アルフレッドの艶がすごくいい。ちゃんとブラッシングしてくれていたんだね。ありがとう」
美しく澄んだ黒い宝石のような瞳を向けられ、礼を言われて馬丁はドギマギする。
「い、いいえ…」
…まるで人形みたいに綺麗な人だ…。
先月、北海道の田舎から出て来たばかりの馬丁は、目の前にいる中性的な透明感と艶に満ちた美青年を目の当たりにして、手綱を持つ手が震える。
ここは富裕層専用の乗馬倶楽部なので、この一カ月で馬丁も、ある程度の容姿が整った美しい令嬢や夫人は見慣れてきた。
しかし、この縣男爵家の末弟だという美貌の青年だけは、何度見てもその類稀なる美しさと、どこかひんやりとした妖しい色香に見慣れることができない。
今も手綱を渡そうとして、その白く美しい華奢な手を思わず握りしめてしまい、大慌てで詫びる。
「す、すみません…!」
真っ赤になって頭を下げる馬丁に、暁は微笑んだ。
「アルフレッドに親切にしてくれて、ありがとう。…これからもよろしくね」
優しい言葉に、馬丁はうっとりしながらお辞儀をするとふわふわとした足取りでその場を後にした。
暁はアルフレッドの鬣を直してやり、
「さあ、今日は久しぶりに馬場馬術の稽古だ。アルフレッド、物足りないかも知れないけれど、一緒に頑張ろうね」
鞍に手をかけ上がろうとした時、暁の背後から水仙のように清廉な薫りがしたかと思うと、密やかな美声が耳元に響いた。
「…鞍の金具はもう少ししっかり締めた方がよろしいです。…落馬されたら大変だ」
暁の目の前に美しくしなやかな手が伸び、鞍が的確に設置し直された。
驚き、振り返る。
「…月城!」
乗馬服を見事に着こなした北白川伯爵家の美貌の執事、月城が暁を見下ろして静かに微笑んでいた。
「ご無沙汰しております。暁様」