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暁の星と月
第7章 愛と哀しみの円舞曲
馬場を訪れたのは久しぶりだ。
…暫くは仕事に忙殺されていたからな…。
暁はふっと薄く笑う。
…いや、仕事に逃げていたという方が正しいかな…。
時間が空くと、余計なことを考えてしまいそうで…
敢えて仕事に熱中していた。
丁度、縣商会が手がけている新しい洋食屋が間も無く開店するということもあり、休日返上で働いていた。
「暁、仕事のし過ぎだ。少しは休みなさい」
と、兄に心配されたほどだった。
兄は暁をいつも心配してくれている。
…多くは尋ねずに。

「縣様、馬のご用意ができました」
乗馬倶楽部の馬丁が、眩しそうに暁を見ながらアルフレッドを連れてきた。

黒い燕尾型のジャケット、レースをあしらった白い立て襟のシャツ、黒いリボンタイ、細腰を強調するような白い乗馬ズボンに黒革の長ブーツ姿の暁は、秋風が吹き始めた透明な空気の下で、息を呑むほどの美貌に輝いていた。
美しい顔立ちは相変わらずだが、そこに物憂げで哀愁を帯びた色香が加わり、馬丁は思わず目が釘付けになる。

「…最近来られなかったからアルフレッドのことが気に掛かっていたんだ。…きちんと世話をしてくれて、ありがとう」
そう優しく声をかけながら、乗馬手袋を嵌める暁に、馬丁は赤くなりながら
「い、いいえ…」
と答えるのが精一杯だった。

アルフレッドは久しぶりに主人を乗せるのが嬉しくて興奮気味だ。
暁は笑いながら身体を撫でる。
「ごめんね、アルフレッド。…今日は少し遠出しよう。…丘の上まで行くからね」

アルフレッドに跨り、外遊への道を行く。
高い木立に囲まれた遊歩道…。
暁は空を見上げる。
色づき始めた銀杏並木…。
もうすっかり秋の景色だ。

「…春馬が婚約したそうだ」
兄から聞いたのは、先々週の晩餐の席でのことだ。
下僕が差し出すオードブルを皿に取り分けながら、思わずカトラリーを持つ手が震えた。
しかし、次には落ち着いて、笑顔で答えた。
「…そうですか。…それはおめでたいことですね」
「お相手は、西坊城子爵令嬢の絢子さんだそうだ。…何でも絢子さんが熱烈に春馬に恋をしての婚約らしい。西坊城家では大変な騒ぎらしいぞ。子爵は嬉しさの余り男泣きに泣いたらしい。…結婚式も早々に執り行うそうだよ」
「春馬さんがお選びになった方です。…きっと素晴らしいお嬢さんでしょう。お幸せを願います」
淀みなく祝いの言葉が出る自分が不思議だった。


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