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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
翌朝、暁と風間は部屋で遅い朝食を摂った後、部屋を出た。
エレベーターの中で、風間は暁の髪にキスをしながら尋ねる。
「…今度はいつ逢える?」
風間の屈託のない甘い囁きがくすぐったい。
「…来週の日曜日なら…」
「じゃあ、日曜日にしよう。…何がしたいか考えておいてくれ」
暁は躊躇いつつも、風間に思いきって問いかけようと口を開いた時…
エレベーターの扉が開き、明るい陽射しが差し込むエントランスフロアに着いた。
エレベーターから降りた二人の目の前にいきなり現れたのは小さな男の子だった。

可愛らしいセーラー服の上着と半ズボンを着た5歳くらいの男の子はパタパタとフロアを駆け回っていたが、エレベーターから降りてきた風間を見つけると、満面の笑みで手を広げ、駆け寄って来た。
「忍おじちゃま!」
風間は苦笑しながら、男の子を軽々と抱き上げる。
「こら、忍くんだろ?司!」
「おじちゃまおじちゃまおじちゃま!」
…司さんと呼ばれた男の子は相当な悪戯っ子らしい。
大きな眼をくるくる動かしながら、笑い出した。
「こいつめ!後でお仕置きだ」
そんなことを言いながらも風間は司が可愛くて仕方がないらしく、ひょいと肩車をしてやる。
意外な場面に遭遇した暁は、思わず笑みを漏らした。
眼が合った風間は少し照れたように少年を紹介する。
「俺の甥だ。…風間司。…司、忍くんのお友達にご挨拶しなさい」
司は暁を眩しそうに見つめると、恥ずかしそうに
「…こんにちは…」
と呟いた。
可愛い挨拶に暁も微笑む。
「こんにちは、司くん。初めまして…」
そして、そっと尋ねる。
「…忍さん、ご兄弟がいらしたのですね…」
「ああ…兄がいた。…この子の顔を見ることもなく、列車事故で亡くなったけれどね…」
さらりと説明した風間に、暁は思わず息を呑む。

「…司…司…。どこにいるの?」
密やかな、静かな声と共に、一人の眼を見張るばかりの美しい婦人が奥の廊下から現れた。

艶やかな黒髪を品良く束髪に結い、上質ではあるが地味な濃紫の友禅の着物を身につけた年の頃は三十くらいの美貌の女性であった。

「お母様!」
司が嬉しそうに叫ぶ。
風間の表情が変わったのを暁は気付いた。
女性は司を見つけると、ほっとしたように静かに微笑んだ。
「…またおいたをして…。忍さんを困らせてはいけませんよ」
窘めながら暁に気づき、丁寧に品の良いお辞儀をした。
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