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暁の星と月
第8章 月光小夜曲
根津にある百合子の家の座敷に駆け込むと、百合子は泣き腫らした眼で、風間を見上げた。
風間を見た途端、百合子は唇を震わせ、再び涙を流した。
「…忍さん…司が…司が…!」
身体の内側から燃え滾るような情動に抗えず、風間は百合子を抱きしめた。
「…義姉さん!」
百合子は風間の胸に縋り付く。
「…司は私の命なのです…司は…亡くなったあの方の大切な忘れ形見…。司を奪われるくらいなら…私は死にます!」
「死ぬなんて言うな!俺が…俺が必ず司は取り返す。…義姉さんの元に取り戻す…!…それから…」
華奢な百合子の肩に手を置き、じっと見つめる。
「…義姉さんを再婚なんてさせない。…そんな…政略結婚の道具になんか…絶対にさせない!」
百合子の美しい瞳からとめどなく涙が流れ落ちる。
「…忍さん…」

…ああ、この二人は密かに愛し合っているのだと、暁は静かに悟った。
お互い、口には出さなくても…心で通じあっている二人なのだ…と。

不思議と妬心は湧かなかった。
…絢子さんには憎しみと嫉妬心しか持てなかった…
だから苦しかった。

けれど、風間と百合子は…
暁は密かに愛し合う二人を美しいと思った。
…僕もこんな二人になりたかったのだ…。
結ばれなくてもいい…
お互いを思い合う眼差しがある…
それだけで良かったのに…

暁は過ぎた胸の痛みを振り払うと、静かに二人に話しかけた。
道中ずっと考えていた計画だ。
「…まずは司くんを取り戻しましょう。…忍さんは素知らぬふりをして、ご自宅に戻られてください。…そして、司くんを遊びに連れてゆくと断り、出ていらしてください。…その時、必要最小限度の貴重品と身の回りの品もお持ちください、
ミツさんは百合子さんの必要なものを纏めてください。
…余り荷物になると目立つので少なめに」
風間は眉を顰める。
「…暁…なにを考えている?」
暁は穏やかに微笑む。
「百合子さんには家に来ていただきます。…司くんがいなくなったと気づけば、真っ先にこちらが疑われるでしょう。家ならすぐには気付かれない」
「…⁉︎」
「…司くんを取り戻したら、忍さんと百合子さんと三人で外国…フランスに身を隠していただきます。
さすがに外国まではご実家の方も追ってはこないでしょう」
驚きの余り声も出ない二人に暁は微笑みかけた。
「…愛する人同士は離れてはいけないのですよ」












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