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暁の星と月
第9章 ここではない何処かへ
「…本当によくいらしてくださいましたわね、暁様。
お元気そうで何よりですわ。最近はなかなか我が家にお越しいただけなくて、寂しく思っておりましたのよ」
梨央自ら美しいロイヤルコペンハーゲンのティーポットを手に、薫り高い紅茶を暁の茶器に優美に注いだ。
白いシフォンタフタのドレスを着た梨央は相変わらず天使のように清らかで美しい。
暁は穏やかに微笑む。
「…申し訳ありません。仕事やなにやら…野暮用ばかりで慌ただしくしておりまして…」
「まあ、本当に?…こんなにお美しい暁さんがお仕事三昧なんて信じられないわ。…きっと恋にお忙しくてお顔を見せてくださらないのねと梨央さんと話していたのよ」
一方、濃い紫のアフタヌーンドレスを身につけた綾香は悪戯めいた瞳で笑う。
少しも嫌味を感じさせない無邪気な口調でそう言った。
出身が下町浅草で、出自も庶子と自分とよく似ている綾香のことを暁は好もしく思っている。
思わず目を奪われるような華やかで妖艶な美貌ももちろんだが、その自由闊達な性格や…何より腹違いの深窓の令嬢、梨央との恋を貫いている綾香を暁は憧れめいた気持ちで眺めていた。
兄の礼也が二人の為に身を引き、自ら梨央との婚約を解消した時は、綾香を少し憎んだこともあった。
しかし、二人の愛と絆の深さを知り、綾香の梨央への真摯な愛情を知ると最早憎しみは消え去り、今はただ憧憬の念と羨ましい気持ちがあるのみだった。
二人が愛しあっていることを知っているのはごく一部の人間のみだ。
礼也と暁…そしてこの屋敷の執事の月城…。
暁は苦笑しながら答える。
「…そのような色っぽい理由なら良いのですが…残念ながら全くです」
注がれたばかりの薫り高いダージリンを優雅な仕草で口に運ぶ暁は、二人の姉妹からはまるでお伽話から抜け出てきた王子のような麗しい姿であった。
略式のお茶会なので、明るい色合いのジャケットにリボンタイという甘さを感じさせる服装なのも実に貴公子めいて良く似合っている。
「…本当に?…ねえ、私ずっとお聴きしたかったのだけれど…。暁さんは恋人はいらっしゃるの?」
好奇心に美しい瞳を輝かせた綾香が大胆に暁に尋ねる。
梨央が慌てて、綾香の袖を引く。
「お姉様…!」
「いいじゃない。悪いことではないのよ。お聴きしたいわ」
壁際に端正に控える執事、月城と目が合う。
暁は、すぐにその視線をさり気なく外した。
お元気そうで何よりですわ。最近はなかなか我が家にお越しいただけなくて、寂しく思っておりましたのよ」
梨央自ら美しいロイヤルコペンハーゲンのティーポットを手に、薫り高い紅茶を暁の茶器に優美に注いだ。
白いシフォンタフタのドレスを着た梨央は相変わらず天使のように清らかで美しい。
暁は穏やかに微笑む。
「…申し訳ありません。仕事やなにやら…野暮用ばかりで慌ただしくしておりまして…」
「まあ、本当に?…こんなにお美しい暁さんがお仕事三昧なんて信じられないわ。…きっと恋にお忙しくてお顔を見せてくださらないのねと梨央さんと話していたのよ」
一方、濃い紫のアフタヌーンドレスを身につけた綾香は悪戯めいた瞳で笑う。
少しも嫌味を感じさせない無邪気な口調でそう言った。
出身が下町浅草で、出自も庶子と自分とよく似ている綾香のことを暁は好もしく思っている。
思わず目を奪われるような華やかで妖艶な美貌ももちろんだが、その自由闊達な性格や…何より腹違いの深窓の令嬢、梨央との恋を貫いている綾香を暁は憧れめいた気持ちで眺めていた。
兄の礼也が二人の為に身を引き、自ら梨央との婚約を解消した時は、綾香を少し憎んだこともあった。
しかし、二人の愛と絆の深さを知り、綾香の梨央への真摯な愛情を知ると最早憎しみは消え去り、今はただ憧憬の念と羨ましい気持ちがあるのみだった。
二人が愛しあっていることを知っているのはごく一部の人間のみだ。
礼也と暁…そしてこの屋敷の執事の月城…。
暁は苦笑しながら答える。
「…そのような色っぽい理由なら良いのですが…残念ながら全くです」
注がれたばかりの薫り高いダージリンを優雅な仕草で口に運ぶ暁は、二人の姉妹からはまるでお伽話から抜け出てきた王子のような麗しい姿であった。
略式のお茶会なので、明るい色合いのジャケットにリボンタイという甘さを感じさせる服装なのも実に貴公子めいて良く似合っている。
「…本当に?…ねえ、私ずっとお聴きしたかったのだけれど…。暁さんは恋人はいらっしゃるの?」
好奇心に美しい瞳を輝かせた綾香が大胆に暁に尋ねる。
梨央が慌てて、綾香の袖を引く。
「お姉様…!」
「いいじゃない。悪いことではないのよ。お聴きしたいわ」
壁際に端正に控える執事、月城と目が合う。
暁は、すぐにその視線をさり気なく外した。