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暁の星と月
第10章 聖夜の恋人
…暁は、温室の長椅子に横たわりぼんやりしている礼也を、入口からそっと見つめていた。

昨日パリから帰国した礼也は、いつもと様子が違っていた。
出迎えた暁を優しく抱き締め、飯塚の件をとても労い、いたわってくれた。
「…お前のお陰で本当に助かったよ。…私の代わりに大変な仕事をさせてしまい、すまなかった…」
…ありがとう…と呟く礼也の瞳にはいつもの情熱的な温度と力がなかった。
どことなく寂しげで、哀しげな眼差し…。
暁を見ているようで見ていない、ぼんやりした眼差し…。

暁は妙な胸騒ぎがした。
…兄さんはどうしたのだろうか…。
…パリで何かあったのだろうか…。

礼也はどんなに忙しい時や、大変な時でも暁に沈み込んでいる様子を見せたことなど一度もなかったのだ。
常に大らかで明るく、大人の余裕を漂わせている男…それが礼也だった。

礼也は温室に置かれた常夏の植物や花を見るともなしに見ている。
その表情は苦しいような途方に暮れたような焦れたような…実に複雑なものであった。

暁はいたたまれずに、礼也の方へ歩き出した。
熱帯の花々の絡みつくような香気と湿度が身体に纏わりつく。
しどけなく長椅子に横たわり、遠くを見つめている礼也の手には白い包帯が巻かれている。
昨日帰宅した時に、手の甲に血が滲んでいるのを発見し、暁が慌てて手当したものだ。
どうしたのか問い詰めても
「何でもないよ」
と笑うだけで教えてはくれなかった。

暁は兄の傍らに跪き、そっとその手を取る。
「…兄さん、包帯を替える?」
礼也がゆっくりと暁を見て微笑んだ。
「大丈夫だよ。かすり傷だ…心配ない」
「…でも…兄さんの綺麗な手が…痕が残ったら大変だから…」
暁は、兄の手を包み込みそっと頬に押し当てた。
…兄さんはどこもかしこも綺麗だ…。

礼也の身体に触れているだけで、安心するのは昔からだ。
24にもなって子供じみていると思いながらも、久しぶりに帰国した兄の温もりに触れたくて、暁は礼也の手を握りしめたまま、逞しい身体に寄り添う。
そんな暁を礼也は厭う様子もなく、横たわったまま髪を撫でてくれた。

大紋と決別した暁の空虚な心に、礼也の絶対的に温かく、堅固な存在が染み入る。
「…兄さん…僕は兄さんがいれば何もいらない…」
…そう…恋人も…いらない…
…兄さんさえいれば…
礼也の手にくちづける。











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