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暁の星と月
第10章 聖夜の恋人
「…兄さん、クリスマスツリーを飾らない?」
遠慮勝ちに聞いたのは暁だった。
「…クリスマスツリー…?…ああ…そうか…」
…明日はイブか…。
礼也は何かを思い出したようにしみじみと呟く。
そして申し訳なさげに、暁の肩を抱き締める。
「…すまない、暁。…今年は色々立て込んでいて、お前へのクリスマスプレゼントはまだ用意していないんだ。
…今から支度して、銀座に買い物に行こう。…何が欲しい?好きなものを言ってくれ」
暁は慌てて首を振る。
「ううん。プレゼントはいらない。兄さんが帰ってきてくれたから、それで十分…」
礼也は眼を細める。
この美しい弟は昔から驚くほどに無欲だ。
何かを欲しがったところを見たことがない。
…これで本当に幸せが掴めるのだろうかと少し心配になる。
「…お前は本当に欲がないな。…もっと我儘になれ。欲しいものは欲しいと言っていいんだ」
暁は口籠る。
「…プレゼントはいらないけれど…あの…兄さんとツリーを飾りたいな…て」
「…ツリーか。…まだ飾っていなかったのか?」
「…うん…。兄さんはパリだし、僕ももう大人だし、どうしようかなと考えていたら、飯塚であの事故が起こったから、それどころじゃなくて…」
暁は儚げな美しい貌に寂しそうな微笑みを浮かべた。

縣家では12月に入ると、庭師が日光から切り出してきた樅木を玄関ホールに設置する。
それから使用人総出で飾り付けをするのだ。

暁が14歳で縣家に引き取られ、初めてクリスマスを迎えた時、見事なクリスマスツリーを見て驚きのあまりに声も出なかった。
暁はクリスマスツリーはおろか、クリスマスも知らなかったのだ。
きらきら光る星のオーナメントを、礼也に抱き上げられて飾り付けした時に、感激に声を詰まらせた。
「…兄さん…すごく…綺麗だね…」
黒目勝ちの瞳は潤み、今にも泣きそうだった。
礼也は思わず暁への愛しさが込み上げ、強く抱きしめたものだ。

「…よし!ツリーを飾ろう!二人で思い切り派手に飾り付けよう!…そして男二人で賑やかにお祝いしよう!」
礼也は陽気な声を上げると、暁を背後からくすぐりながら抱き締めた。
暁が子どものように笑い出し、礼也にしがみついた。
…優しい兄さん…僕はいつまで兄さんとこうしていられるのかな…。
暁は近づきつつある予感が透けて見えるのを、受け止めながらも、礼也の手をそっと握りしめた。






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