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暁の星と月
第13章 暁の星と月
居間の縁側の硝子戸を開け放つ。
春の夜風が心地よい。
桜はもう終わってしまったが、これから春の花々が一斉に芽吹くだろう。
今夜は春の宵にしては珍しくはっきりと月と…それを囲むように煌めく星が見えた。

ジャケットを脱いで、縁側に座る。
冴え冴えとした月を見上げる。
…木々が触れ合う音が聞こえ、庭の潜り戸に背の高い男の影が見えた。
暁は首を巡らす。

執事の黒い制服姿の月城が佇んでいた。
暁は静かに微笑んだ。
「…お引越しは終えられたのですね…」
飛び石を踏みながら、男が近づいて来る。
「…うん。今日、全て済んだよ」

月城は縁側に座っている暁を見下ろし、その彫像のような貌で驚いたように笑った。
「…まさか我が家とこんなに近いところとは思いませんでした…。
…お隣だとはね…」
暁はくすくす笑う。
「君を驚かせたかったんだ」

麻布十番の出物を聞いた時、まさかとは思ったが不動産屋の案内で現地に着いて驚いた。
…月城の家の隣の家だったのだ。
暁は、だからこの家に拘ったのだった。

「驚きました」
「…それだけ?」
拗ねたような貌をする暁を愛しげに見つめ、隣に腰を下ろす。
「…嬉しかったです…」
「良かった…。…できるだけ、君のそばに住みたかったんだ…」
…月城の立場もあるし、まだ一緒に住むわけにはいかない。
けれど、そばにいたい。離れたくない。
だから、この家にした。
月城は黙って暁の肩を抱き寄せる。
水仙の花のような薫りが仄かに漂った。
暁はうっとりしたように月城の胸に頭を預け、墨を流したような夜空を見上げる。
二人で夢のように美しい春の夜空を見つめる。

「…兄さんにもそのうち、君のことを話したい…。
…いいかな?」
「…ええ、もちろん」
「…兄さんはさすがに驚くかもしれない…」
…まさか暁が月城と恋仲になっているとは思わないだろう。
「そうですね」
「…兄さんが怒ったら?」
「…お怒りが解けるまで、私の気持ちをお話します」
「君の気持ち?」
「…貴方をどんなに愛しているか…それだけでも三日三晩かかります」
月の光のように冴え冴えとした眼差しで見つめられ、暁は頬を染めて俯く。
「…キザだな…」
「…恋する男はキザにもなります」
見上げた瞳に笑いが滲んでいて、暁は思わず吹き出した。
釣られて月城もふっと笑った。
温かい…暁の大好きな月城の笑いだった。

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