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暁の星と月
第3章 暁の天の河
三笠ホテルのダイニングルームは、軽井沢で一夏の避暑を過ごす上流階級の上客で華やかに賑わっていた。
暁はこういった席は礼也によって何度も連れて来られ、大分慣れてはきたが、まだ戸惑う自分がいた。
ほんの数年前までは、浅草の朽ちかけていたような長屋で、食うや食わずやの生活をしていた自分だ。
それが今は、上等の舶来品のスーツを身につけ、ダイニングの中でも一番良い席にエスコートされ、連れの男が選んだ上等なシャンパンを口に運んでいるのだ。
…僕の人生は夢のように変わったんだ…。
兄さんのお陰で…。
ランプの灯りに照らされた大紋の端正な美貌に兄の面影がふと重なる。
…だめだ。兄さんのことを考えちゃ…。
春馬さんに失礼だ…。
暁は慌てて、胸に浮かんだ兄の面影を消す。
落ち着くために、ヴーヴクリコのシャンパンを一口飲む。
上質なきめ細やかな泡と華やかな葡萄の芳醇な味が口一杯に広がる。
「…美味しい?」
大紋が優しく暁を見つめながら尋ねる。
「はい、とても…」
大紋は満足そうに頷き、尚も熱く暁を見つめる。
「…そのスーツ、良く似合うよ。…まるでイギリスの貴公子みたいだ…」
暁は大紋が密かにオーダーしていたスーツに身を包んでいた。
夏らしい涼しげな生成りのジャケットに白いフリルがあしらわれたシャツ、ワインレッドのリボンタイは、暁の優しげで優美な美貌に良く似合っていた。
その証拠に、2人のテーブルの傍らを通る紳士や淑女が暁を見ては目を見張っていた。
「君があまりに美しくて、皆が注目しているよ」
大紋の手放しの賞賛に暁は恥じらいながら目を伏せる。
「…そんな…僕じゃないです。春馬さんですよ」
大紋はこの場にふさわしいイタリア仕立ての粋なスーツをりゅうとして着こなしている。
兄の礼也も大変なお洒落だが、大紋もかなりの着道楽だ。
この軽井沢にも行きつけの仕立て屋を持っており、暁のスーツもそこで誂えさせたらしい。
「…この服…嬉しいですけれど、戴く訳には…」
服飾に明るくない暁でさえ、このスーツが相当に高価なものだということは良く分かる。
大紋は何でもないように笑って、テーブルの上の暁の手を握りしめる。
「…頼むから貰ってくれ。僕は恋人にプレゼントするのが大好きなんだ…とても綺麗だよ、暁…」
「…春馬さん…」
…不意に近くから陽気な声が聞こえた。
「…縣…?…やっぱり縣だ!」
暁はこういった席は礼也によって何度も連れて来られ、大分慣れてはきたが、まだ戸惑う自分がいた。
ほんの数年前までは、浅草の朽ちかけていたような長屋で、食うや食わずやの生活をしていた自分だ。
それが今は、上等の舶来品のスーツを身につけ、ダイニングの中でも一番良い席にエスコートされ、連れの男が選んだ上等なシャンパンを口に運んでいるのだ。
…僕の人生は夢のように変わったんだ…。
兄さんのお陰で…。
ランプの灯りに照らされた大紋の端正な美貌に兄の面影がふと重なる。
…だめだ。兄さんのことを考えちゃ…。
春馬さんに失礼だ…。
暁は慌てて、胸に浮かんだ兄の面影を消す。
落ち着くために、ヴーヴクリコのシャンパンを一口飲む。
上質なきめ細やかな泡と華やかな葡萄の芳醇な味が口一杯に広がる。
「…美味しい?」
大紋が優しく暁を見つめながら尋ねる。
「はい、とても…」
大紋は満足そうに頷き、尚も熱く暁を見つめる。
「…そのスーツ、良く似合うよ。…まるでイギリスの貴公子みたいだ…」
暁は大紋が密かにオーダーしていたスーツに身を包んでいた。
夏らしい涼しげな生成りのジャケットに白いフリルがあしらわれたシャツ、ワインレッドのリボンタイは、暁の優しげで優美な美貌に良く似合っていた。
その証拠に、2人のテーブルの傍らを通る紳士や淑女が暁を見ては目を見張っていた。
「君があまりに美しくて、皆が注目しているよ」
大紋の手放しの賞賛に暁は恥じらいながら目を伏せる。
「…そんな…僕じゃないです。春馬さんですよ」
大紋はこの場にふさわしいイタリア仕立ての粋なスーツをりゅうとして着こなしている。
兄の礼也も大変なお洒落だが、大紋もかなりの着道楽だ。
この軽井沢にも行きつけの仕立て屋を持っており、暁のスーツもそこで誂えさせたらしい。
「…この服…嬉しいですけれど、戴く訳には…」
服飾に明るくない暁でさえ、このスーツが相当に高価なものだということは良く分かる。
大紋は何でもないように笑って、テーブルの上の暁の手を握りしめる。
「…頼むから貰ってくれ。僕は恋人にプレゼントするのが大好きなんだ…とても綺麗だよ、暁…」
「…春馬さん…」
…不意に近くから陽気な声が聞こえた。
「…縣…?…やっぱり縣だ!」