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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行

ゴールデンウィークも明けて二週間経ったある夜半、香凜は例のごとく事後の不快にまとわれながら、キッチンに場所を移した。
零時を回っているというのに、明かりのついたそこには美衣子がいた。眠れなかったらしく、彼女の手許から耳に心地好いティーポットの音が立っていた。緑茶が茶漉しを愉快に踊る。
「却って眠れなくなりませんか」
「カテキンには強いから」
「私も、ご一緒させてもらえませんか」
「香凜さんも眠れないの?」
姑らしい口振りとはよそに、美衣子は香凜の腕を寄せた。袖を押さえた指先が、悩ましげに香凜を撫でる。入ったばかりの緑茶から、優しい湯気が昇っていた。
本当に口づけたいもの、それは、カップではなく美衣子だ。
舅は眠りに就いたらしい。誠二も今しがたの営みに満足して、寝具で果てているはずだ。
美衣子が不眠の事情を問うても、香凜に応える術はない。
最愛のキスは、誠二とのそれが塗り替えた。肌が記憶した極上の愛撫は、誠二のそれが汚した。
今夜に始まったことではない。今夜に始まったことでなくてこそ、美衣子にだけは話したくない。
そして香凜と同じくらい、美衣子も切実な私情を匂わせていた。
「甘えん坊さん」
「せいくんにも、言われます」
「私以外の人のことを、今は、聞きたくないわ」
「っ、…………」
美衣子の独占欲を望んでいた。香凜のすみずみまで触れながら、美衣子は恋人と呼ぶ義娘を手に入れたがった試しがない。
物足りなかった。誠二からでさえ、奪いたがって欲しかった。
二つの唇と唇が、惹かれ合う。腕を絡めて、香凜は脚の間に美衣子のももを招き入れる。壁に背中を預けたまま、身体を寝間着越しに触らせた。
美衣子の麻酔のようなキスが、香凜の意識を鈍らせてゆく。

