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第24章 香港ー周到なる罠

「……なんでしょうか？」

真っ直ぐに自分に向かって歩き、後もう少しという場所で八神様は……止まった。

「私は、今出来る事から始めようと思うの。
仁科さんは、私にルークの事を頼むと言ったわ」
「仁科様が八神様に？？」
「そう。
杞憂の話は聞きません、話せない何かがある、私もそう思うから。
でもね、ルーク自身は？
ルークの心は何処にあるの？
仁科さんは自分とルークは似ていると、特に女性の好みは同じだと思うって。
それに……仁科さんを通して少しだけ見えた、言って良いのかな…………パウリーネさん……だよね？」
「…………っっ！！」

パウリーネ。
その名前は、心の奥底に沈めた名前。
未練に未練を重ね、振り返る自分を断ち切る為に、パウリーネとした約束。

「今更……ですっ！
パウリーネは居ない、パウリーネの子供も孫もその先も、もう居ないんです。
お願いですから、思い出させないで下さい。こんなのは自分が辛いだけ……」
「違うの！！」
「何が違いますか？
例え今の自分の心が何処にあろうとも、自分はそれに応える事は出来ません。
失う悲しさは一度だけで十分、二度は嫌なんです自分は」

幸せと空白を味わった。
ただ一つ、死しても尚自分を解放したパウリーネ。
仁科様と自分は似ているかも知れないが、違うのは此処。
仁科様は失った事が無い、失う事も無い。
この違いは大きい。

自分の心が八神様に向いていても、八神様は仁科様のもの。
自分がどうこうして良い存在でないのは百も承知、アリアン様が言おうともだ！