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花の蜜
第1章 届かぬ思い
「櫻井さん!」

焦った声で、教室の入り口から担任が呼んでいた。
友達と、おしゃべりしながら昼食を食べていた蜜香は教室の入り口を見た。

「櫻井さん、急いで帰る支度をしてください」と言われる。

言われた内容が、理解できなくて聞き返す。
「先生、今なんて?」

「お母様が事後に遭われて、病院に搬送されたそうです。病院まで送って行きますからすぐに支度を。」

そんな言葉を聞いていたが、後半は全然届いていなかった。

頭の中が真っ白になるというのはこういう事かと。回らない頭でなんとなく思っていた。

気がついた時には、管に繋がれた母の姿が目の前にあった。

「お母さん? ねぇ、起きて?」

「今日は、お母さんお手製のコロッケ作ってくれるんでしょ?」

「ねぇ、 お母さん!」

何度呼んでも返事は返ってこない。

そんな姿を、周りの大人は見守るだけだった。






泣き疲れて、ベッドに頭だけ載せて寝ていた蜜香は大きな音で目がさめる。

母に繋がっていた機械から音が鳴り始めたのだ。
蜜香はどうしていいかわからず、母を見つめ続けた。

まもなくして、医師や看護婦が慌てて病室に入ってくる。
ベッドの近くにいた蜜香は、看護師によって遠ざけられた。

蜜香は、医師の行為など見る事も出来ず目をつむって祈り続けた。
(お願い、私からお母さんを取らないで。唯一の家族を、どうか連れてかないで)






蜜香の祈りは届かなくことはなかった。
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