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第2章 高野 正一郎
「ゼンエモンの娘や。別嬪やいうし、ええ話やろ。お前ももうそろそろ落ち着いてもええ歳やからな。」

「…断ってくれ。決めた女がおる。」

「なんや、そんな相手が居ったんか!ほな早よ言わんか。」

「言おうと思うとった。機会がなかっただけや。どっちにしても縁談は受けん。」

「…ほならゼンエモンに断りを入れんとな…」

そんな、遣り取りの後やった。

「正一郎さん…私、縁談が来たん。」

「縁談…?」

「…正一郎さんのこと、好きやったけど…何時迄も待ってられんの。私ももう二十四やし…」

トキエはそっと目を逸らし、地面を睨んだ。
まるで、俺が煮え切らんのを咎めるような言い方。

「それは…!」

「解っとる。ウチの、借金さえ無ければ、やろ?せやけど、それは今言うてもしょうがない。お父ちゃんの事は見捨てられんもん。…縁談相手はな、お金持ちなん…」

結局金か…そりゃ俺にはポンと肩代わりしてやる程の資産はない。それにしたって、そんな言い方、あんまりと違うか⁉︎

俺のこの三年はなんやったんや。

俺はキリ、と奥歯を噛み締め、下ろしたままの拳を握った。

「…わかった。もうえぇ。嫁でも何でも行ってまえ!」
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