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第5章 シーン　5

「厭な思いをしたのか？」
「そうじゃない。そうじゃないけれど、胸が苦しい。あたしたち風間さんをだましているわけでしょ。それも最もひどいやり方で。」
　大輔はすぐには言葉を返さずにじっとあたしの瞳を見つめた。一度口に出してしまった言葉は取り返しがつかない。
　ずっと帰り道考えていた事だった。言えばどうなるか考えると躊躇せざるを得なかったけれど、それでも言葉が先に口を衝いて出てしまった。
「風間の事が好きになったのか？」
　多分そう言うだろうと予想はしていた。あたしが放った言葉は大輔の猜疑心を煽る事になってしまった。当然の問いにあたしはどう答えれば正解なのかすぐには思いつかないが、沈黙はさらに悪い状況に陥る。
「好きになった。」
　ぽつりと放った一言が大輔の身体にナイフのように突き刺さっていくのをあたしは感じた。